少し前まで世界経済は収縮の崖っぷちにいるという悲観論が強かったが、昨今の株高でセンチメントはすっかり変わっている。今日のファイナンシャル・タイムズは世界の株式市場が今年の最高値をつけたことを報じる記事の中でブラウン・ブラザース・ハリマンのアナリストの言葉を紹介していた。
「1ヶ月前は投資家は世界経済の下落速度は鈍化しているかどうかを見ていた。今は・・・彼等は世界経済は成長しているかどうか質問しない。彼等はどれ位の速さで経済が成長するかを質問する。」
欧州の株高を牽引したのは、HSBCとバークレーズの予想を上回る好決算だ。バークレーズの半年決算の利益は29億ポンド。利益を叩き出したのは投資銀行部門のバークレーズ・キャピタルだ。社長のVarley氏は数千人のバークレーズ・キャピタルの社員に記録に迫る高額のボーナスを支払う報酬体系について謝ることもなく「我々は才能ある社員を採用し確保するために競争力のある報酬パッケージを提供する必要がある」と述べている。
記事によると今年の後半も業績が良いとバークレーズ・キャピタルの社員は平均10万ポンド(約16百万円)のボーナスを受け取ることになるそうだ。
いやー、何とも景気の良い話である。ところでこの景気という言葉だが、中々不思議な言葉で元々は経済に関する言葉ではなく、風景に関する言葉で景色の精気や力を指していたということだ。気韻が高い風景画(山水画)を景色が良い画という具合に使うということだ。
これが転じて経済に活気・精気がある状態を景気が良いというようになった。ということは経済成長はしているけれど、人々の精気がないという状態は景気が良いといえないのではないだろうか?昨年まで日本では実感なき景気回復という言葉があったが、景気の語源に戻ると自己撞着した表現というべきだろう。
「日は又昇る」といわれた時期の日本に活気がなかったのは、儲かった会社の多くが余り社員にボーナスを出さなかったし、また多額のボーナスを貰った人も「景気良く」使わなかったのではないだろうか?「景気良く」使わなかった人の中には忙しすぎて使えなかった人や世間の目を気にして使えなかった人がいるだろう。
煎じ詰めると景気が良い状態とは人々が贅沢をしている状態なのだ。それを無駄遣いと呼ぶか人生をエンジョイしていると呼ぶかは別として。
私は消費余力のある人がもっと消費できるような社会~例えば働き盛りの夫婦がベビーシッターを雇って夜観劇に行くことを賞賛するような社会~を作るという主張があっても良いと思っている。こんなことを言うと「アンタは贅沢だ」と批判を浴びるかもしれないが、今の私はそれ程贅沢をできる身分ではない。しかし贅沢をする人をやっかむ気持ちもない。ただ精気に満ちた社会を作らないと経済成長が上を向いたところで、本当に景気は良くならないことを懸念している次第だ。