先週のエコノミスト誌は世界の郵便事業の問題を取り上げ「手紙の量が減少する中で民営化が郵便サービスを守る最良の方法」 Why privatisation is the best way to protect postal services as letters die out という論文を掲載している。
この話題が耳目を集める大きな理由は、英国の郵便局Royal Mailがストライキを決行し、大きな影響を与えたからだ。CNNの記事によると機械化に反対する郵便職員4万3千人以上が先週木曜日にストライキに参加し、35万通の手紙が遅配になっている。
もう少し大きな構図の中で郵便問題を考えると、電子メールの発達等で、手紙の配達量は年率数パーセントの割合で減少を続けていたが、これはコントロール可能な範囲だと考えられていた。しかし今回の不況で世界の郵便事業は大打撃を与えた。エコノミスト誌によると世界の多くの郵便事業者は今年5%から10%以上の手紙の取扱量の減少を予測している。米国の郵便事業では、9月までの1年間で取扱量はほぼ14%(280億件)減少した。2008年11月に米国の郵便事業は28億ドルの赤字決算(2年連続)を出したが、今年は更なる赤字が見込まれている。
欧州についてはモルガンスタンレーのアナリストが、向こう10年で手紙の量は半減すると予想している。更に欧州では2011年には残っている郵便事業の独占が廃止されるため、更なる競争激化が予想されている。なお興味深いことに日本では郵便の取扱高は昨年2%しか減少していない。
このような事業環境の中でエコノミスト誌は郵便事業の国有化を続ける国と民営化した国を比較して「郵便事業の民営化こそが手紙の減少に対応する方策」と主張している。
皮肉なことに1990年代には英国の郵便事業は現代的な郵便事業のお手本と言われ、ドイツやフランスの郵便局の幹部が見学に来ていたが、機械化投資が遅れたため、現在では競合相手に較べて効率性が4割劣ると言われている。
一方民営化されたドイチェ・ポストとオランダのTNTポストは、小包配達や至急便に事業を拡大するとともに、信書の配達業務の効率化を進めて成功している。
郵便事業の民営化に反対する人の主張は「民営化された郵便事業者は、将来の投資よりも短期的な利益目的に走る」というものだが、事実は異なっているのだ。民営化されたドイチェ・ポスト、TNTポストやベルギー・ポストは、長期的な投資により海外進出や第三世代の自動化を考ええいる。
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米国等で郵便の取扱が急減している大きな理由は不景気で企業が宣伝メールの配送を控えているからだ。また請求書等をインターネットに切り替えるべく、顧客に誘導していることも大きい。これに較べて個人の信書の減少速度は遅いが、やがて電子メール、携帯メールなどに置き換わっていく。
紙ベースのメールが減ることは、環境保全の観点からも歓迎するべきことだろう。
日本の郵便事業の民営化問題も「民営化するとユニバーサル・サービスが危うくなる」などいう観念論的な議論や政争の道具とすることなく、長期的な経済合理性に基づく議論がおこなわれるべきだろう。
例えば民営化を行っても、不採算な山間部への配達等のコストは政府が補助することで解決できるはずだ。
米国では赤字に苦しむ郵便事業のトップが議会に週6回の配達を5回に削減することを考えてくれと要求している。信書の電子化が進む中で、紙ベースの信書の配達を希望する人はある程度の不便を受容する時期にきているのではないだろうか?