エコノミスト誌は「どうして中国は元高に抵抗するのか?」という記事を載せていた。この記事のポイントは「中国側の論理」を分析していることだ。相手の論理を理解する・・・ということは何事においても重要だ。特に為替問題はそうだろう。
中国が緩やかな人民元の上昇を容認するのではないか?ということはこのブログでも書いた。これは人民銀行が四半期金融政策レポートで為替政策に関する政策変更を示唆するコメントを書いたからだ。しかし為替政策は人民銀行マターではなく、国務院マターであり、特に担当の商務部は今のところ元高に反対している。従ってオバマ大統領と胡錦濤主席の会談でも主席は元高シフトを謝絶している。
他国が元高を主張する根拠は、元高は米国の貿易赤字問題のような、世界的なインバランスを修正するのみならず、中国にもメリットがあるということだ。元高は中国の輸出依存体制を修正し、より持続的な成長経路に導くということだ。
では何故中国は抵抗するのか?中国政府は「為替政策が不公平な優位性をもたらしている」という批判を否定する。例えば昨年の世界的な金融危機時に他の新興国の為替レートは大幅なドル安になったが、中国はドルにペグすることで為替レートを維持した。2008年当初に較べると実際元は円を除いて上昇してしている。
また中国政府は自国の金融政策と財政政策が世界のバランス回復に大いに貢献していると主張する。中国の内需は12%伸びているが、輸出は4%減少し、経常黒字はGDP比で2007年の11%から半分近い6%まで縮小している。中国の政治家は長期的には元が上昇する必要があるということを受け入れているが、輸出が減少している今は悪いタイミングだと言う。
投機家に元が緩やかに上昇するという観測を与えると、ホットマネーが流入し、国内に過剰流動性をもたらす。エコノミスト誌は、これを避けるためには恐らく25%程の大きな元の切り上げが機能するだろうが、これは一夜にして多くの輸出業者の仕事を奪うので政治的には受け入れられないという。
そしてエコノミスト誌は「中国は多分来年の早い時期に元が再び上昇することを認めるだろう。何故なら中国の輸出は成長路線に復帰し、GDP成長率は10%近くなり、インフレ率はプラスになるので、人民元の上昇をサポートする意見が大きくなるだろう」と結論つけている。
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エコノミスト誌の予想のとおり、来年初めに元高が始まるかどうかは分からない。何故なら中国の輸出成長率がプラスに転じるためには、欧米の消費が回復に向かう必要があるからだ。しかし失業率の状況などを見ると欧米の景気回復は楽観視できる状態ではない。
不確かなことが多い中でより確かなことは、長期的には中国は輸出依存度合いを減らさないと成長が持続しないということだ。欧米・日本の消費者のふところや押入れは増加する中国製品を買い続けるほど大きくはない。
中国が次の成長ステップを内需に求めざるを得ないことは自明の理である。内需を拡大するには中流階級以下の所得を拡大していく必要がある。より多くの給料を支払うために中国企業は売上高ではなく、利益を拡大していく必要がある。
だが日本でもこれらのことは簡単ではない。中国にとっても効果的な内需拡大は極めて困難な課題だと私は見ている。非効率な内需~つまり無駄な投資~を作ることは簡単だが、本当に有用な投資を行うことはそれ程簡単ではないと私は思っている。