金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ブラジル、リスクは自惚れに陥ることか?

2009年11月13日 | 株式

私のブログを金融サイド(つまり「山」側からではなく)から見ている人にとっては、ここ1年ほどの間ブラジル投資が群を抜くパフォーマンスを上げていることはご存知(あるいは高いリターンをエンジョイされている?)ので多くは語らない。しかし気になるところは「その勢いがどれ位持続するか?」というところだろう。最近では大きな停電があったようにインフラ面の不備なども気になるところだ。

だが今週のエコノミスト誌の記事Brazil takes off「ブラジルは離陸をする」を読む限り、当面失速のリスクより加速の期待が大きいようだ。もっともエコノミスト誌は「ブラジルのリスクは成功に自惚れることだ」という警告を発するが。

ブラジルの経済成長は5%に復帰。エコノミスト誌は深海油田の開発とアジア諸国の旺盛な食糧と鉱物資源の需要で更に経済成長は向こう数年間加速すると予想する。そしてかってゴールドマンザックスが予想したより速いペースでブラジルは世界第5位の経済大国になると予想する。

BRICsの他の国と比較した場合、ブラジルの強みは次のようなものだ。

・中国と違い民主主義国家である

・インドと違い暴動、民族的・宗教的対立がなく、敵対的な隣国もない

・原油と武器輸出に依存するロシアと違い輸出品が豊富でかつ外国人投資家を尊重している

また洗練された社会政策で内需を拡大している点も中国より優れた点だ。中央銀行の独立性や国営企業の民営化が進んでいる点もブラジルの強みだ。

だがエコノミスト誌は「新しいブラジルの実力を過小評価するのが誤りであると同時に弱点をかばうのも誤りだ」と指摘する。例えば政府予算は全体の経済成長より速いペースで拡大している割に、民間部門・公共部門とも固定資本投資が少ないという弱点がある。また最近改善されつつあるものの、教育やインフラ面で中国または韓国に遅れている点も弱点だ。

新しい問題はレアルがドルに対して昨年末来5割近く上昇していることだ。輸入品が安くなったので生活水準は改善しているが、輸出業者は苦しくなっている。ブラジル政府は先月短期資本の流入に税金を課したが、レアル高が止まる見込みは低い。特に海底油田の採油が始まるとレアル高は続きそうだ。

エコノミスト誌は現在のルーラ大統領は大変ラッキーな大統領だという。何故なら前任のカルドーゾ大統領の時期に成長路線が引かれていたところに、世界的なコモディティ・ブームが来たからだ。

話はそれるけれど、ちょっと調べたところこのカルドーゾという人は、米国のスタンフォード大学やフランスのパリ大学などで教鞭をとったことのある著名な社会学者ということである。一方現在のルーラ大統領は働きながらようやく小学校をようやく小学校を卒業したという貧農の生まれで学歴については天と地ほどの開きがある。それでも大国ブラジルの舵取りをこなすのだから、政治的能力は学校の教育で得られるものではなさそうだ。

エコノミスト誌は最後に「ブラジルの最大のリスクは成功体験に自信過剰になることだろう」と警告を発し、次の大統領(来年選挙がある)は、ルーラ大統領が「無視しうる」として残した問題に取り組むことになるだろうと書いている。そして大統領選挙の結果は経済成長のペースに影響を与えるだろうが、成長そのものは大丈夫だろうと述べている。

☆    ☆    ☆

今ではボベスパ連動型上場投信(東証上場)という便利な商品ができたので、日本時間に気軽にしかも大きなコストをかけずにブラジル株(インデックス)に投資することが可能になった。無論簡単に投資できることと投資成果があがるかどうかということには関係はない。ただ投資のチャンスが広がったことは歓迎するべきだろう。

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ニューヨーク・タイムズ、普天間基地問題を論評

2009年11月13日 | 国際・政治

12日付のニューヨーク・タイムズはJapan cools to America as it prepares for Obama visit.

「日本はオバマ大統領の来日を前に米国に冷たくなっている」という題で普天間基地移転問題に関する日米の論争を分析している。まずポイントを見てみよう。

・オバマ大統領は1990年代の貿易戦争後、最も日米間の論争が高まっている13日に訪日する。オバマ政権は日本の民主党が政権を取った後、外見上の前向きな顔から新政権を歓迎した。しかし同時に何人かの政府高官は民主党の選挙キャンペーンが両国間の係争を招くことを懸念していた。

・この懸念は数週間後、日本政府が8年にわたるインド洋給油活動を中止すると言ったことで現実のものとなった。そして日本政府は普天間基地移転に関する2006年協定を見直す計画であると発表した。日本の官僚は突然米国の官僚と公然と論争することを避ける内気さをなくした。

・鳩山首相は「米国とのより対等な関係」を求め、政府は日米地位協定の見直しを要求した。もっとも9月のG20でオバマと鳩山が最初に会った時、仲直りKiss-and-make-upをしたように見えた。ただ鳩山首相にはちょっと気まずい一時があった。それはG20首脳によるディナーに鳩山夫妻が遅れホストのオバマ夫妻を2時間近く待たせ、鳩山がI 'm sorry we were lateと誤ったことである。

・だがこのような小話は別として両国間の緊張が高まったのはゲーツ国防長官~彼は率直に話すことで知られているが~が鳩山と防衛省幹部に「軍事協定上の約束を守れ」と圧迫した時である。ゲーツは基地問題を蒸し返すことは非生産的であると言い、防衛省主催の歓迎会への出席を断った。

・オバマ来日を前にして日本政府は米国政府の政治的な反応を調べるため国会議員を含む幹部官僚を派遣して、米国政府と会合を持つとともに、外交問題専門家の意見も調査した。専門家の一人ワシントン大学のOros教授によると日本側は「どうか我々に圧力を加えないでくれ。何故かというと米国が圧力を加えるとあなた達は望まない答えを聞くことになるからだ」と言ったということだ。同教授は「日本政府は選挙運動で並べた美辞麗句のいくつかを撤回しようとしているが、それは余りに早すぎる」と述べている。

・オバマ政権は両国の関係悪化を放置しておくつもりはないと述べている。政権の東アジア担当のBader氏は「鳩山政権は米国とより対等な関係を求めているので、我々はその方向に動く準備をしている」と述べている。しかし米国側には係争を封じ込める動きはあるものの、沖縄基地問題については日本に圧力を加えている。オバマ大統領はNHKのインタビューで「日本は協定を守らなければならない」と述べた。オバマ大統領は「新政権が将来に向かってどのようにするかを再検討することは妥当なことだが、自分としては検討の結果、基地移転に関する協定が日本の国益になるという結論に至ると確信している」とも述べている。

・緊張を緩和するとともに、恐らくインド洋給油活動中止の埋め合わせとして日本は今週火曜日アフガン正常化のために50億ドルの支援を行うと発表した。

・最終的には基地を巡るささいなけんかは解決されるとしても、日本の米国との経済的な関係は中国の対等により変化している。貿易相手として中国は米国を凌駕した。「日本はその将来を米国よりもアジアの中に見ている」「日本は米国の経済政策特にドル安により日本が被害を受けていると感じている。」とコーネル大学のPrasad教授は述べている。

☆    ☆    ☆

日米関係がギクシャクする折、私はふと幕末に日本に開港を迫ったペリーやロシアのプチャーチンのことを思った。というのは一般に列国は砲艦による恫喝外交を迫ったと見る傾向があるが、専門家の中には違った見方をする人がいるからだ。例えば歴史作家の中村彰彦氏は、イスラム史・国際関係史の専門家山内昌之東大教授との対談(「黒船以降」中公文庫)の中で「ペリーのやり方は恫喝外交といわれますが、交渉の経緯を見ていると、彼らは日本の国際的な立場、世界の孤児のようなポジションを心得ていて、そのあたりを丁寧に教えてくれているような感じもありますね」と述べている。

一方日本では水戸の徳川斉昭のようにロシアのプチャーチンが乗っていた船が津波で大破した時「遭難して上陸したロシア人を全員殺してしまえ」などと暴言を吐いていた。もっとも幕末の名外交官・川路聖謨(としあきら)が、500人のロシア人の上陸を認め、あらたに船を作ってあげたのでロシア人の感謝するところで無事終結したが。

これらの話は幾つかのことを示唆している。一つは「外交」を政治家~徳川斉昭を政治家と呼ぶべきかどうかという問題はあるが~の理念?で仕切ろうとすることの危うさである。ついでにいうと長年野党の立場にいると、人というものは観念化する(水戸藩というのは徳川政権に対して長年の野党だった)。つまり何かの旗印を立てないと自らのアイデンティティを保てないからである。ところがその野党が突然政権の座に座った場合(水戸斉昭は「海防参事」という国防の責任者になった)、自らの観念論に縛られて、現実的対応が取れなくなる・・・という悲劇が起こる。

数百万億円の負担で済む給油支援活動を止め、どれだけ効果があるか分からない上、国際的に評価不明なアフガン支援に5千億円近い援助を約束するなどというのは観念論の弊害というべきなのだ。

今回のニューヨーク・タイムズの記事を見ると「米国は冷静に日本の問題を見ているし、自国の弱みについても把握しそれを読者に伝えているな」という印象を受ける。日本もまたゲーツ長官が高飛車な態度に出たなどという局面にとらわれることなく、冷静な対応を取るべきだと私は考えている。

コメント (1)
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