50最近ブログに書いた幾つかの記事にご批判やご賛同を頂いています。貴重なご意見どうもありがとうございます。
私がブログに幾つかの外国の有力紙(誌)の見解を紹介している理由は、そこに掲載された総ての意見に組している訳ではありません。しかしそのような意見は内外の政治家や投資家達に影響を与えそれが日本の政治経済に影響を与えると考えているからです。好き嫌いは別として大きな影響力を持つクオリティ・ペーパーの意見は参考にするべきでしょう。
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さてオバマ大統領の訪中の最中、米国の有力シンクタンク・外交問題評議会Council on Foreign Relationsは「米中の経済問題については4つの俗説があるが、事実と俗説を分けて考えるべきだ」というレポートを発表しいてる。このようなレポートは米国政府関係者が読むだけでなく、私は中国の関係者も読むのだろうと考えている。またレポートの書き手も当然そのことを期待しているはずだ。広い意味の情報活動とは「敵を知り己を知る」とともに、相手に己の知見を伝えることも含まれると私は考えている。
レポート(著者Dunaway氏)が上げる4つの俗説とは「米国は中国からお金を借りているから、交渉に限界がある(中国は米国の銀行)」「米国は中国の安い輸入品に依存している」「中国の政策変更について外部圧力を加えることは逆効果を生じる」「社会的不安定は中国にとって悪いことだ」というものだ。
個々の俗説については後ほど説明するが、著者は「これらのことは俗説なのだから、オバマ大統領さん、言うべき主張は遠慮せずにしてください」と述べている訳だ。
さて最初の「中国は米国の銀行」という俗説についてだが、中国は2兆3千億ドルの外貨準備の7割を米ドルで保有していると推定される。レポートは「中国は米国の大顧客ではあるが、銀行ではないし、米国は財政赤字のファイナンスを中国に依存していない」と言う。もし中国が米国債を買わないという選択をした場合、全世界的に公的資金や私的資金の買い手が現れる。この場合新しい買い手を誘引するため、米国政府は多少国債金利を引き上げる必要があるかもしれないが、引き上げ幅は小さいだろう。(この後レポートは中国政府がドルの替わりにユーロを準備通貨になるとどうなるなど幾つかのシナリオを展開しているが省略する)
「中国の安い輸出品に依存している」俗説については、レポートはこれは全く真実ではないと言う。米国は衣料、繊維など多くの消費財を中国から輸入しているが、もし中国からの輸入がストップしても、他国から輸入するか自国で生産することが可能だ。恐らくコストは少し上がるだろうが。実は依存関係は逆で、中国が輸出先の米国に依存している。中国は今年政府の景気刺激策で8%成長が達成可能だが、米国向けの輸出が増えないと来年はこの目標達成が苦しくなる。
「外部圧力は逆効果」俗説について、レポートは「外部圧力の影響を受け易いと思われたい国はないが、外部圧力がないと政策変更をするインセンティブは少ないというのが真実だ」という。
うーん、何ともpusy(押し付けがましい)物言いである。かって米国はこのような「教義」に基づき、日本に構造改革を求めてきたものだ。
だがレポートは「このことは特に中国においては真実なのだ。何故なら中国政府は過去の成功体験に縛られていて現状維持傾向が強い。2008年8月から外部圧力がなかったので、中国は人民元を再びドル相場に固定した。」と続ける。
最後は「社会不安」俗説で、レポートは「中国政府は中国内部の社会的不安定は中国の経済成長にマイナス効果をもたらすので、世界に悪影響を及ぼすと示唆するが、社会的不安定や不安定に対する警戒心は、中国の経済政策を変える上で大きな役割を果たしている」と述べる。例えば沿岸部と内陸部の所得格差による社会的不安定に対する懸念が内陸部開発政策を促進した。
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ざっと見たところこの「4つの俗説」論にはすっと入る部分と若干疑問を持つ部分がある。そのことの真偽は別として、米国のシンクタンクがこのようなメッセージを発していることは今後の米中交渉を予想する上で一つの材料になると私は考えている。