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金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米中経済関係を巡る4つの俗説

2009年11月17日 | 国際・政治

50最近ブログに書いた幾つかの記事にご批判やご賛同を頂いています。貴重なご意見どうもありがとうございます。

私がブログに幾つかの外国の有力紙(誌)の見解を紹介している理由は、そこに掲載された総ての意見に組している訳ではありません。しかしそのような意見は内外の政治家や投資家達に影響を与えそれが日本の政治経済に影響を与えると考えているからです。好き嫌いは別として大きな影響力を持つクオリティ・ペーパーの意見は参考にするべきでしょう。

☆   ☆   ☆

さてオバマ大統領の訪中の最中、米国の有力シンクタンク・外交問題評議会Council on Foreign Relationsは「米中の経済問題については4つの俗説があるが、事実と俗説を分けて考えるべきだ」というレポートを発表しいてる。このようなレポートは米国政府関係者が読むだけでなく、私は中国の関係者も読むのだろうと考えている。またレポートの書き手も当然そのことを期待しているはずだ。広い意味の情報活動とは「敵を知り己を知る」とともに、相手に己の知見を伝えることも含まれると私は考えている。

レポート(著者Dunaway氏)が上げる4つの俗説とは「米国は中国からお金を借りているから、交渉に限界がある(中国は米国の銀行)」「米国は中国の安い輸入品に依存している」「中国の政策変更について外部圧力を加えることは逆効果を生じる」「社会的不安定は中国にとって悪いことだ」というものだ。

個々の俗説については後ほど説明するが、著者は「これらのことは俗説なのだから、オバマ大統領さん、言うべき主張は遠慮せずにしてください」と述べている訳だ。

さて最初の「中国は米国の銀行」という俗説についてだが、中国は2兆3千億ドルの外貨準備の7割を米ドルで保有していると推定される。レポートは「中国は米国の大顧客ではあるが、銀行ではないし、米国は財政赤字のファイナンスを中国に依存していない」と言う。もし中国が米国債を買わないという選択をした場合、全世界的に公的資金や私的資金の買い手が現れる。この場合新しい買い手を誘引するため、米国政府は多少国債金利を引き上げる必要があるかもしれないが、引き上げ幅は小さいだろう。(この後レポートは中国政府がドルの替わりにユーロを準備通貨になるとどうなるなど幾つかのシナリオを展開しているが省略する)

「中国の安い輸出品に依存している」俗説については、レポートはこれは全く真実ではないと言う。米国は衣料、繊維など多くの消費財を中国から輸入しているが、もし中国からの輸入がストップしても、他国から輸入するか自国で生産することが可能だ。恐らくコストは少し上がるだろうが。実は依存関係は逆で、中国が輸出先の米国に依存している。中国は今年政府の景気刺激策で8%成長が達成可能だが、米国向けの輸出が増えないと来年はこの目標達成が苦しくなる。

「外部圧力は逆効果」俗説について、レポートは「外部圧力の影響を受け易いと思われたい国はないが、外部圧力がないと政策変更をするインセンティブは少ないというのが真実だ」という。

うーん、何ともpusy(押し付けがましい)物言いである。かって米国はこのような「教義」に基づき、日本に構造改革を求めてきたものだ。

だがレポートは「このことは特に中国においては真実なのだ。何故なら中国政府は過去の成功体験に縛られていて現状維持傾向が強い。2008年8月から外部圧力がなかったので、中国は人民元を再びドル相場に固定した。」と続ける。

最後は「社会不安」俗説で、レポートは「中国政府は中国内部の社会的不安定は中国の経済成長にマイナス効果をもたらすので、世界に悪影響を及ぼすと示唆するが、社会的不安定や不安定に対する警戒心は、中国の経済政策を変える上で大きな役割を果たしている」と述べる。例えば沿岸部と内陸部の所得格差による社会的不安定に対する懸念が内陸部開発政策を促進した。

☆   ☆   ☆

ざっと見たところこの「4つの俗説」論にはすっと入る部分と若干疑問を持つ部分がある。そのことの真偽は別として、米国のシンクタンクがこのようなメッセージを発していることは今後の米中交渉を予想する上で一つの材料になると私は考えている。

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健康寿命雑考

2009年11月17日 | うんちく・小ネタ

今日(17日)の日経新聞に保険会社の全面広告で「健康寿命」の話が載っていた。健康寿命とは平均寿命から要介護となった期間を差し引いた寿命のことだ。WHOの調査によると、日本人の健康寿命は男性が72歳、女性が78歳だ。男性の平均寿命は79歳なので、20年も先の話だと思っていたが、健康寿命の平均は72歳と聞くと視界の端に見えてくるような気がする。弱気になった一つの原因は、最近大学山岳会のOBが肺がんで69歳を持って他界したという訃報を受け取ったことも影響しているようだ。この方とは30数年前冬の八ヶ岳・石尊稜でザイルを組んだことがある。私がトップで登ったが、取ったルートが悪かったのか、ホールドがやたら細かく苦労した記憶がある。このような思い出は歳月を越えて、記憶の深層に残っているものだ。

話を健康寿命に戻そう。まず健康寿命の長い国について、WHOの資料を調べてみた。第1位は日本で男性71.9歳、女性77.2歳、第2位はオーストラリアで男性70.8歳、女性75.5歳、第3位はフランスで男性69.3歳、女性76.9歳。

因みに男性の健康寿命が70歳を越えているのは、日本、オーストラリア、スウェーデン、イタリア、ギリシアの5カ国だけだ。

次に男性について平均寿命と健康寿命の差つまり介護期間について国別の違いが大きいかどうか調べてみた。結論からいうと先進国の間で介護期間の差は余りなく平均7年半程度だ。具体的には日本7.4年、スウェーデン7.6年、オーストラリア7.6年、フランス7.2年だ。ちょっと中心から外れているのはアイスランドの10.3年、アイスランドの男性の平均寿命は79.5歳と世界第1位なのだが、健康寿命は69.2歳のため、介護期間が長くなっている。韓国も介護期間が11.2年と長い。そのお隣の北朝鮮は介護期間が極端に短く1.5年だ。男性の健康年齢は59.9歳で平均年齢は61.4歳。つまり介護状態になると1年半で終末を迎えるということだ。これは医療・介護サービスの不備のせいだろう(統計が正しければ)。なお一般的にはアフリカ諸国のように平均寿命が短い国では介護期間が短い傾向がある。

ついでに医療費(公的健康保険・私的健康保険・自分で支払う医療費の合計)のGDPに占める割合と健康寿命の関係を調べてみた。先進国の医療費のGDPに占める割合は8-10%程度だ。日本は世界ランクの上から数えて39番目とかなり低く、8.2%だ。日本の少し上にはイタリア8.9%、カナダ9.8%などがいる。医療費の比率が高いのは米国で世界ランク第2位で15.2%、ただし健康寿命は67.5歳とあまり高くない。この理由が「アメリカ人は脂っこいものを沢山食べながら、多額の医療費を払っていること」によるのか、それとも「健康寿命の長い人も多いが、貧困等の理由で寿命の短い人も相当いる」という医療格差によるものなのかは、手元のデータだけでは判断することはできない。

これらの話を総合すれば、日本は相対的に少ない医療費で世界トップの健康寿命を達成している国だということができる。その理由は医療制度の充実に加えて、食習慣の影響が大きいだろう。

ところで要介護になる原因の主なものは「脳血管疾患」「高齢による衰弱」「転倒・骨折」「痴呆」といったところだ。これらの病気の予防方法は専門家のアドバイスにお任せするとして、私はできるだけ体を動かすこと、特にジョギング、エアロビクス、サイクリングなどが良いだろうと考えて実践している。しかし時々深酒をするなど体に良くないこともしているので健康寿命を伸ばすことができるかどうかは分からない。なお所詮寿命など分からないから、「やりたいこと」の先延ばしをしないことに私は努めている。

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ドル・キャリー相場、始まりがあれば終わりもある・・・

2009年11月17日 | 金融

今日(11月17日)の日経新聞朝刊に「ドルのキャリー取引が活発になっている」という記事が出ていた。記事の中に円ドルのボラティリティが低下したので「キャリー取引の条件が整いつつある」という記述があり、この記事だけを見るとあたかもこれからキャリー取引が活発化するよな印象を持つ。しかし市場に関心のある人ならばドル・キャリー取引がかなり前から始まり、それがエマージング株式・コモディティなどの価格を押し上げてきたことは既に承知のことである。またルービニ教授のように「アセット・バブルを回避するために連銀は引き締めに転じるべきだ」と主張する人もいる。

昨日バーナンキ連銀議長は「強いドルをサポートする」という異例(為替問題は通常財務省の所管なので)のコメントを出した。このコメントを受けてドルは一時的に強含んだが、「低金利政策は持続する」と再確認したので、結局ドルは売られた。

同日発表された米国の10月小売り売上高が市場予想(0.8%)を上回るプラス1.4%と好調だったことも好感され、S&P500は1.5%上昇の1,109ポイントで引けた。これは13ヶ月ぶりの高値で心理的な壁の1,100を越えたことも好感できる。

相場を押し上げているのは、ファンダメンタルに加えて年末までに好成績を残したいと考えているファンドマネージャー達の意欲だ。彼らのボーナスや来年の雇用は今年の成績なかかっているから、12月の前半頃まで彼らは大いにがんばるだろう。少なくともそれまでは怖くても、ドル・キャリーの波乗りを続けそうだ。

しかし私は実体経済や株式市場が改善してくると、連銀は金融政策の転換を模索する。

為替についてもう一つ気になることは人民元の動きだ。人民銀行は先週四半期レポートで人民元に関するコメントを大きく変えた。具体的にはBasically stableという言葉を削除し、「ドル以外の主要通貨を為替レートの目安とする」という文章を入れた。この結果為替市場は向こう12ヶ月で人民元がドルに対して3.4%上昇すると予測している。

人民元の切り上げは米国の輸出競争力を高める上、ドル金利引き上げによるドル高の影響を緩和する効果がある。人民元の動きは注目点だろう。

以上のようなことを考えるとドル・キャリーは始まったというより、結構熟しているのではないか?と私は直感している。あくまで直感の域だが。

ところでロイターによると、世界の株式市場指数MSCI-All country World Indexは昨日1.6%上昇して、13ヶ月ぶりに高値を更新したが、日経平均は大型の増資圧力に押されて0.2%の上昇にとどまった。日本の場合はデフレ懸念も大きなマイナス要因だ。

米ドルと円についていうと今が円の高値だろうという気がしてならないのである。

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