金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

民主党政権で何が変わったのか?

2010年02月15日 | 政治

今日(2月15日)の日経新聞朝刊を見ると一面の中程に「消費税論議、来月から」と「首相、子ども手当満額支給見送り示唆か」という二つの見出しが躍っている。いずれも民主党が去年の総選挙で掲げたマニフェストの重要政策の変更を示唆するものだ。少し前には「高速道路の無料化を段階的に実施する」プランが発表された。無料化されるところは交通量の少ないところで、実質的には余り影響のないところだ。民主党が政権交代で掲げた政策は急速に色褪せている。

私はこれらの民主党のマニフェストが「客寄せパンダ」以外の何ものでもないことを知っていたので、特段失望はない。しかし選挙民にこのような公約が実現されるのではないか?と思わせた人は責任を負うべきであろうと考えている。

「選択」2月号の巻頭インタビューで、政権交代を主張して、民主党に政策提言を行ってきた山口二郎北大大学院教授が反省の弁を述べていた。

「政権交代が必要だという信念で民主党を応援してきたが、反省すべきところがある。政権交代自体が目的となってしまった。・・・マニフェストも大幅に後退するわけで、一体何が変わったのかという疑問が出てくるのも仕方ない。」「最近の世論調査にも国民のジレンマがよく表れていて、まだ政権交代を起こして四ヶ月、何とかしてほしいという思いが伝わってくる。しかしそれが完全に裏切られたときは、国民の絶望感は計り知れない。政治的ニヒリズムが襲う」

日経新聞がJ・フロント・リテイリングの奥田社長にインタビューした記事の下に「聞き手から」のコメントが出ていた。

「日本人の不安感の底流には政治の迷走がある。民主党の支持率が低迷する一方、自民党への不信感も強い。両党とも消費増税に消極的なのは選挙で票が離れるのを恐れるからだろう。だが北欧の社会保障政策は超党派で進めてきた。充実させるには長期間かかるからだ。具体策を唱え実行する政治が今、求められる」

もっとも政治不信や社会への不満度が高いのは日本だけの話ではない。ドイツなども同じ傾向にある。内閣府が行った「青少年目安箱」という調査によると、日本の青少年で社会に満足している人(満足+やや満足)は35.5%で、不満の人(不満+やや不満)は59.4%。ドイツは満足32.6%、不満65.7%。スウェーデンは満足75.3%、不満23%で、アメリカは満足76.5%、不満21.8%だ。日本、ドイツで不満の大きな原因は「良い政治が行われていない」ことだ。

またWhen China rules the Worldに出ていたデータによると「国の状態」に対する満足度が一番高いのが中国で満足72%、不満19%だ。このデータには日本は登場しないが、アメリカが満足40%、不満57%、ドイツが満足25%、不満73%となっていることを見ると、もし同じ調査を日本で行うと過半数以上の人が不満を示すことは間違いないだろう。

私は日本人の不安や不満の原因は政治の迷走だけではないと考えている。台頭する中国など新興国に市場を奪われて経済成長が余り見込めない日本。中高年には老後の不安や両親の看護問題が圧し掛かり、多くの若者は力を発揮できるビジネスの場を見つけることができない・・・ということが不安と不満の源泉であると考えている。これらの問題を政治の力で解決することは簡単ではない。いや極めて難しいだろう。しかし国の指導者達には国の進む道を示す必要がある。

何故ならこれらの大きな問題を統合的に解決する方法を指導者が提示し、実行しなければ国民の不安や不満は減らないからである。

政権交代が目的化して民主党が掲げた公約が早晩画餅となることは見えていた。だが、鳩山や小沢の政治献金問題だけを追求している自民党も代替案を打出す見識はない。

日本の義務教育は択一問題の回答は得意だけれど、創造性の乏しい人材を作ってきた。同様に日本の政治は裏工作やヤジは得意だけれど、国民的なビジョンを掲げられる政治家をスポイルしてきた・・・ということだろうか?

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錬金術の罠にはまった南欧諸国

2010年02月15日 | 社会・経済

ニューヨーク・タイムズの報じるところによると、ギリシアなどの金融危機の一つの原因は、それらの国の債務状況の不透明性にある。

債務残高を不透明にしているのは、デリバティブである。例えば同紙によるとギリシアは2001年にゴールドマンザックスのアレンジで、空港の将来の着陸料金を担保にして最初に現金を受け取る取引をおこなった。常識的に考えるとこれは「将来収入を担保とした借入」なのだが、ギリシアは借入ではなく、スワップ取引として取り扱った。

また1996年にイタリアはJPモルガンのアレンジで通貨スワップを取り組んだ。通常の通貨スワップは市場レートをベースに将来のある通貨(例えばユーロ)と別の通貨(例えばドル)の交換額を決めるものだが、イタリアはアップフロントで現金が欲しかったため、将来通常の交換額より多額のお金を払うスワップ契約を行ったとタイムズは報じている。

「政府が不正をしようと思うとすることができる」とあるIMFのベテラン職員は述べている。イタリアやギリシアの財政赤字は、EUの基準を超えていたので、彼等はおおやけに債務を増やすことが困難だった。そこで彼等は税収を増やすことや歳出を抑えることよりも、「人工的」に債務を小さく見せる方法を選んだのである。

これらのデリバティブ取引は公開されていない。従って南欧諸国がどれ位オフバランスの債務を抱えているかが、分からないため投資家の不安は増幅している。

タイムズは「米国の投資銀行が欧州の債務問題を作り出した訳ではない。しかし完全に合法な手段を使ってギリシアやその他の国が歳入を越えて借入を行うことを可能にした」と述べている。

ギリシアの空港収入を担保とする取引では、「アイオロス」という名前のSPCが使われたとタイムズは報じている。アイオロスはギリシア神話の風の神様。空港なので「風」ということになったのかもしれない。たしかに一時金を手に入れた政府には「追い風」が一瞬追い風が吹いたが、ギリシア国民は長い間向かい風に晒されることになる。信用リスクを取ってディールをアレンジした投資銀行が極めて有利な条件で「貸付」を行っていると考えられるからだ。

だがその投資銀行にも今向かい風が吹き始めている・・・・

☆   ☆   ☆

日本では菅財務相が昨日のフジテレビ番組で「本格的な税制の議論を3月に始める」と述べた。このことは評価して良いだろう。そもそも「無駄を削減すると増税しなくても済む」などというのは、選挙民の目を一時的にごまかすデリバティブに過ぎない。無論冗費は省くべきである。しかし今のわが国の財政状況は冗費削減で切り抜けられるレベルを超えている。

日本をギリシア化させないためには、すぐに消費税を引き上げる必要があると私は考えている。財政悪化という向かい風は自然に止むことはない。風に向かって歩き続けるしか方法はないのである。

コメント (1)
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