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金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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米国で2010年は住宅ショートセールの年になる

2010年02月17日 | 金融

FTに米国で住宅のショートセールが増えているという記事が出ていた。Short saleというと大方の人が、株や債券などの空売を想像するだろうが、不動産のショートセールというのは、不動産を空売りすることではない。不動産のショートセールというのは「銀行等の不動産抵当権者が、債権額に満たない弁済額で抵当権を抹消して、不動産の譲渡を認めること」である。

具体例を示すと、AさんがB銀行から借り入れている住宅ローンの残債が20万ドルあるとする。Aさんは職を失い住宅ローンを遅延している。このままでは銀行は抵当権を行使して、Aさんの住宅を差押することになる。ところがこの住宅を15万ドルで買うというCさんが現れた。ここでB銀行は5万ドルの債権を放棄すると、この売買は成立する。これを不動産のショートセールという。

Aさんのメリットは、ローンを返済したことになるので、信用履歴に傷が付かない。Cさんのメリットは安く住宅を買うことができることだ。では5万ドルを放棄する銀行のメリットは何か?というと、差押・競売foreclosureを実行するよりも経費がかからないことだ。米国の住宅ローンは事実上ノンリコース・ローンと考えてよいから、競売を行っても住宅の処分代金でカバーできないローンの残債を債務者から回収することができないので、任意売買であるショートセールを認めた方が得だという計算になる。

FTによると、バンカメ、ウエルス・ファーゴ、JPモルガン、シティなどの大手行が、帳簿をきれいにするため、ショートセールを積極的に受け入れ始めた。銀行はショートセールによる損失はフォークロージャーによる損失よりも20%少ないという。

「もし2009年が住宅ローンの返済条件緩和の年とすれば、2010年はショートセールの年だろう」とサン ディエゴのある不動産ブローカーは述べている。

FTは「オバマ政権は4月にショートセールを促進するため、最大35百ドル(31万円程度)のインセンティブを与えるプログラムを実施する」と述べている。

このインセンティブが誰に支払われるのか明記されていないが、かなりの部分住宅ローンの債務者に支払われるのではないかと私は推測している。というのはシティが最近試験的に実施したプログラムでは「代物弁済を行う住宅ローン債務者に1千ドルの引越費用を支払う」ことになっているからだ。

かって銀行は不動産ショートセールに乗り気ではなかった。何故ならショートセールでは総ての抵当権者の同意が必要であり、また詐欺が多かったからだ。しかし事情通によると状況は変わっているということだ。

☆   ☆   ☆

このことを私はかなりポジティブに受け止めている。その理由の一つは米銀の本格的な不良債権処理が進むからだ。不良債権の処理には「損失を引当てる」段階と「最終処理を行う」段階がある。ショートセールは銀行を「将来の住宅価値下落リスクから解放する」意味で不良債権の最終処理だ。

また「返済できない債務を抱えて苦しんでいた」住宅ローン債務者が何らかのインセンティブを貰って引越しすることは、労働市場の活性化につながる。また住宅に新しい買い手が付くことは市場の底入れにつながると思われる。

☆   ☆   ☆

話は変わるが少し前、HIKOさんという銀行員の読者の方から色々コメントを頂いた(すぐにお返事ができなくてごめんなさい)。その中に投資銀行がギリシア政府にデリバティブ取引を売り込んだことに関して「投資銀行のすごさを痛感しました」というコメントがあった。

このショートセールの動きを見ると商業銀行や不動産ブローカー(ショートセールが行われるとフィーが入る)の動きもダイナミックだと私は思う。彼等もすごい。どん詰まりの状況の中から解決策を見出していく。問題の先送りを続けないところは、日本の金融機関も学ぶべき点だと思う(偉そうなこと言ってすみません)。

コメント (1)
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