今日(2月16日)市場では「欧州連合(EU)がギリシアの赤字問題について追加措置を提案する用意があると意向を示した」ことから、同問題に対する懸念がやや和らいだという。だが本当だろうか?
私はギリシア問題について余り詳しくないので、本当にドイツがギリシアを救済するのかどうか判断する材料はない。しかしドイツの世論調査を見ると世論はギリシア救済に反対する声が強い。世論の3分の2はギリシア支援に反対している。ニューヨーク・タイムズによるとドイツBild紙の調査では「ギリシアの債務問題がユーロの安定性を揺るがすのであれば、ギリシアを欧州連合から追い出せという人が53%を占める」ということだ。
過去10年間ドイツは財政規律を維持するため、失業給付を切り下げ、年金給付を凍結してきた。それなのに放漫な税制政策を取って赤字を増やしたギリシアを救済する必要があるのか?というのが国民感情というものだろう。
だがこれは感情の問題だけではなく、原理原則の問題であると主張する声も強い。
ドイツの経済学者で元欧州中銀のボードメンバーであるオトマー・イシング氏は、FTにEurope cannot afford to resucue Greece(欧州はギリシアを救済することはできない)という寄稿を行っている。
同氏は欧州経済通貨連合は2つの柱を持っていると述べる。その一つは「独立した中央銀行(欧州中銀)による通貨の安定」でもう一つは「メンバー国が達成する義務がある財政の健全性」だ。
同氏は「90年代に多くの経済学者とともに、私は政治連合を確立せずに通貨連合を発足させることは、『馬の前に馬車を持ってくる』ようなものだと警告した」と述べる。そしてその上で「一つの明確な結論はユーロに参加する条件(例えば財政赤字の比率等)に違反した国を救済することは、ユーロの枠組みに対する信頼を大きな衝撃を与えることだろう」と述べる。また同氏は「各国は自国通貨を放棄してユーロに加盟した時、国民に約束したことを忘れるべきではない」と警告を発している。
一方現実的な判断として「オバマ大統領が金融危機において、システミック(連鎖的な)な銀行の破綻を放置しなかったように、欧州は理不尽な国(ギリシアなど)を通貨システムから蹴り出そうとはしない」(Die Zeit紙のJoffe氏)という意見も専門家の間には強そうだ。
繰り返しになるが、現時点でドイツがギリシアを救済するかどうか判断できる材料を私は持ち合わせていない。
「自分達が苦労しているのに、キリギリスのようなギリシアを救済することは許せない」という国民感情。ユーロ設立の原理原則に立つ各国政府の責任論。ギリシアを救済しないと大きな混乱がくるので救済するべしという現実論。この綱引きがどこに落ち着くかは分からない。
ただ一つはっきりしたことは、イシング氏が警告したように「政治的な結合を伴わない通貨連合は非常に難しい」という事実だ。ユーロ発足後今まで問題が表面化しなかったのは、たまたまそこそこの経済成長と超ユルユルの金融環境が問題の表面化を押さえていただけのことなのだろう。
これを教訓としてユメユメ、安易な通貨連合構想など持たないことである。