ロイターに世界各地の海上で領有権をめぐる論争が起きているという記事(Geopolitics, resources put maritime disputes back on map)があった。
尖閣・竹島等日本に直接関係する問題は視野に入っているが、南米や地中海の問題となると見落としがちだ。だが「海事論争」の原因と解決策を考える上ではアジア以外の地域の問題も参考になる。ロイターによると、今年の後半には、チリとペルーは正確な国境を定めるため、国際司法裁判所に行く予定ということだ。これはバングラディシュとミヤンマーが国境確定のため、海洋法に関する国連協定による調停を利用したのと同じプロセスである。
これらは海上の国境問題が平和的に解決されそうな例だが、紛争に拡大しそうな例もある。トルコ、キプロス、イスラエル、レバノンに隣接する東地中海の海域では、2009年に巨大はガス油田が発見された。米国の海事問題分析センターCentre for Naval Analyses(CNA)によると、その埋蔵量は世界が必要する全エネルギーの約1年分に匹敵するという。
余談だが米国政府がスポンサーになり、海軍省や国防省に情報を提供しているCNAのレポートは読む値打ちがある。http://www.cna.org/centers/cna
話を戻すとこの海域に昨年トルコとキプロスは探索船とともに戦闘艦を送り、緊張が高まった。
海洋資源の利権をめぐる争いは尖閣だけではなく、世界各地で広がっている。その背景を考えてみよう。
それは巨大なエネルギー資源の存在である。例えば尖閣諸島については1968年に国連の協力を得て行われた調査では1,000億バレルを超す原油埋蔵量があると発表された。この埋蔵量はイラクやクエートの埋蔵量に匹敵する巨大なものだ。だがこれが本当か?というといささか心許ない。
シフトコラムのホームページによると1994年に日本政府は尖閣諸島(日本側)での可採埋蔵量は32億バレルと発表している。これは68年の発表の30分の1だ。
1バレル=100ドル、1ドル=80円でラフな試算をすると、1,000億バレルなら800兆円の資源となるが、32億バレルなら25兆6千億円だ。ところで米国政府は埋蔵量をどう見ているかというと、エネルギー調査機関のホームページは以下のとおりの情報を提供している。
The EIA estimates that the East China Sea has between 60 and 100 million barrels of oil (mmbbl) in proven and probable reserves. Chinese sources claim that undiscovered resources can run as high as 70 to 160 billion barrels of oil for the entire East China Sea, mostly in the Xihu/Okinawa trough. ・・・・ In the medium-term, the East China Sea is not expected to become a significant supplier of oil.
「エネルギー情報局は東シナ海の確定埋蔵量と推定埋蔵量をあわせて6千万バレルから1億バレルと推定する。中国の情報源は未確認埋蔵量は700億バレルから1,600億バレルと主張しているが・・・・中期的に見て東シナ海が原油の顕著な供給源になることはないと思われる。
エネルギー情報局の予想を金銭になおすと、4,800億円から8,000億円の話で桁が3つも違う。
もし米国のエネルギー情報局の情報を正しいと米国政府高官が信じているなら、数千億円程度の話で戦争なんか起きっこない、と考えている可能性が高い。
もちろん現在の推定埋蔵量が少ないからといって、国家主権を譲るわけにはいかないが、そのために日中関係が冷却して、両国の東面の経済的損失が高まるのも馬鹿げた話である。
日中双方の政治家が尖閣諸島のエネルギー埋蔵量について、客観的な情報を提供するべきだと思うのだが。あるいは日中の緊張を高めることが、一部の政治家のメリットになっているのだろうか?