来週月曜日の相続学会で使う資料は今日印刷をお願いした。原稿を手元においておくと、アチコチ手直ししたいところが出てくるので踏ん切りをつけることにした。
平成25年度の税制改正大綱が発表されていて(正式決定は3月の国会で法案が成立してからだが)、相続税が引き上げられる可能性が高いので一般市民やマスコミの関心が高まっている。例えば現在の基礎控除は相続人が1人の場合は5000万円+1000万円の6000万円だが、改正後は3000万円+600万円で3600万円に減額される。3600万円しか基礎控除がないと地価の高い大都市圏では一般市民の中で相続税を払わざる得ない人が相当増えそうだ。
さて1時間半のセミナーの最初の1/3は遺産動機の話をして、真ん中の1/3は金融資産の管理の話をして最後は金融資産の運用の話をする予定だ。
金融資産の管理と運用を通じて、強調したいポイントは管理コストの削減である。資産管理で飯を食っている信託銀行の現役役職員では中々話難いところだが、日本の資産管理コストは米国などに較べると非常に高いという「不都合な真実」がある。
これは信託銀行や投信委託会社が高い信託報酬で不当に利益を上げているという訳ではない。規模の利益を追求して徹底的に安いコストで合理的な資金運用をする、ということに消費者・金融機関・金融庁がベクトルを揃えていない結果である。昨年世界で一番運用資金を集めたバンガード投信の信託報酬は日本のそれの平均の1/5の0.2%程だった。
世界的に低金利が持続する中、信託報酬の差は大きい。事務コストや運用コストは規模の利益に比例して低減する。特にパッシブファンドの場合は典型的だ。消費者が賢くなり、金融機関の看板の大きさやパンフレットの見栄えなどでファンドを選ばなくなる日が来れば、報酬は低下方向に向かう。そのためには規模が小さく非効率なファンドの閉鎖や統合を進めるべきだし、金融庁もそれを促進するべきだろう。非効率な小さいファンドが乱立し、一般投資家も金融機関も満足していないというのが日本の資産運用・管理の状況ではないだろうか?
「規模の利益の追求」「徹底したIT化」で無駄を省き低コスト化することが業界の課題である。
昨今の信託銀行の動きを見ていると、三菱UFJ信託の「安心信託」に見られるように「金銭信託の信託報酬以外の特別な信託報酬は貰わないけれど、委託者が死亡した時にはあらかじめ指定しておいた相続人に財産を交付する」という遺言代用信託商品がマスプロダクツとして登場してきた。
低金利の持続、高止まりする信託報酬、高齢化に伴いリスク回避傾向が高まってくる消費者、といった環境の中で一部の信託銀行は個人向けにリスク商品を販売することから、マスプロ遺言商品の販売に舵を切り始めたのではないかとすら思われる。
マスプロ以外の信託銀行が提供する遺言信託業務の報酬はかなり高い。高いけれど看板があるので安心感から信託銀行に頼むという人がいる。
医療にしろ介護にしろ資産管理にしろ運用にしろ。個人が1人でできることは限られている。誰か専門家に任せるしかないのである。シニア層にとって一番大切な能力は「誰が信頼できる人か?」を見抜く力なのだろう。人はそのために60年70年と人生経験を積むのである。