2月1日になった。今月の私の大きなイベントは18日の相続学会でのセミナー実施だ。先月のセミナーでは学会の伊藤会長と民法学者の常岡史子獨協大学教授のお話があった。特に常岡教授の話は専門性の深さとスムーズな話運びでさすが、だった。そんな専門家の後で話をするのは、デモンストレータや指導員の後で衆人着目のコブ斜面を滑るほどの「厚かましい」話なのだが、ジェネラリストとして見える世相について淡々と話をしようと思う。
予定している話の一部に「信託銀行が運用競争から管理競争に転換する日」ということを持ってこようと考えている。
その話を持ち出す直接のキッカケは三菱UFJ信託が昨年3月に発売開始した「ずっと安心し信託」という信託商品だ。これは特約付き金銭信託で委託者が生前は自前の年金として使いながら死亡時にあらかじめ指定した受取人に家族一時金を出し、その後長期間に渡って残された家族に継続的に年金型の給付を行うというものだ。
これは「遺言代用信託」を利用した商品だが、顧客訴求力上上幾つかのミソがある。
まず「資産の運用」ではなく「資産の管理」を強く打ち出した点だ。安心信託のパンフレットの表紙には「お金を預かり運用するだけが私たちの仕事ではありません。お金についての『心配』を『安心』に変え、次世代につないでいく、そんなお手伝いをするのも私たちの仕事」と書いてある。
安心信託の最低利用金額は昨年10月に500万円から200万円に引き下げられたからかなりマスプロダクツな商品で日経ヴェリタス賞の最優秀賞を受賞している。担当役員の松下常務は「10万件の契約獲得を目指し、(往年の)貸付信託に並ぶ主力商品に育てて行きたい」と述べている。
安心信託のセールスポイントの一つは「被相続人の死亡時に簡単な手続きで現金が引き出せる」という点だ。相続預金になると引き出しには総ての相続人の同意が必要になり、戸籍謄本の準備などかなり時間がかかる。金融機関の口座凍結による当座の現金不足を助けましょう、という商品なのだ。
また運用は金銭信託として元本保証(正確には元本補填契約)を強く打ち出している。
信託銀行が「運用型」商品から「管理型」商品に力点の入れどころを変えつつある意味を考えてみた。
- 今後の心身の衰えを心配し、元気な内に安全な金融機関にお金の管理を任せたいというニーズが高まってきた。利息や運用成果の良し悪しにはほとんど拘泥しない。
- 世界的に経済の低成長が持続し、インフレが進まないと、消費者のみならず信託銀行も考え始めた。世界経済の全体の成長見通しを3-4%と考えると、長期的な資産運用から期待できる利回りはせいぜい2-3%(むろんかなりリスクを取って、である)。むしろ過去の経験からいうとデフレ傾向の時はジタバタ動きまわるより現金を抱いている方が価値があがる、と多くの人が考えている。信託銀行が運用商品を提供しても吹けど踊らず、である。
私は多くの消費者の直感は正しい場合がある、と考えている。バブルに踊ったのは一般の人ではなく、金融のプロ、セミプロを自認した人だった。多くの人が資産運用についてリスクオフになっている状態は、資産運用に基本的に逆風が吹いているということなのである。