先週米国を訪問していた安倍首相、オバマ大統領との会談を踏まえてTPP参加の交渉に意向を表明した。このことは既に予想されたことなので、特段のサプライズはない。
ちなみに私は概ね以下のことが~明示的か暗示的かは別として~日米首脳部の間で合意されていると以前から考え、それを当面の投資戦略の基本に据えている。
まず現在のオバマ政権の外交面の最大の懸念は台頭する中国に対する懸念だ。より正確にいうとアメリカが信奉する市場主義経済のルールを犯して台頭する中国に対する懸念だ。そこにイスラム過激派や北朝鮮などの暴発に対する懸念が加わる。TPPを単なる自由貿易協定と考えると判断を誤る。それは市場主義経済を尊重するアメリカを盟主とする対中国連合なのである。アメリカが日本に求めるものは、揺るぎないパートナーとしてのコミットメントと具体的な協力である。
安倍政権が抱える問題は多い。まずは今年の夏の参院選に勝利して、政権基盤を安定させることである。そのためには目先の経済見通しの改善は大きな必要条件の一つで、アベノミックスによる株価上昇と円安は一応奏功している。
尖閣問題で中国との衝突リスクが高まっていることも大きな問題。また原発停止に伴う燃料輸入急増やエネルギー資源確保も課題だ。シェールガス開発成功で天然ガスの輸出余力が出てきたアメリカに対する期待は大きい。
ざっと考えると日本がアメリカに対して期待するものが多い割にアメリカが日本に対して期待するものは、TPP参加や沖縄基地問題の解決等限定されている。実現能力が定かでない安倍首相の訪米に関するマスコミや一般国民の関心は極めて低いのは当然である。
だが私はオバマ政権は夏の参院選挙で与党自民党が安定多数を確保できるように色々なfavorを与え続けると考えている。為替がかなり政治化している現在についていえば、ドル円為替レートが100円程度までは容認範囲に入ったのではないだろうか?
TPPについては日本のマスコミは「TPP参加交渉についてあらかじめ関税撤廃を求められるものではない」と日米が共同声明を発表したことを強調している。それは聖域は守るのだから、あとは政府の専管事項として交渉を行うという安倍首相の意向表明につながっていく。
だが外交には相手国との交渉とともに国内の反対勢力との駆け引きも重要だ。それは時として外向きの表現と内向きの説明に違いをもたらす。その違いが微妙な場合は許容されるものだろうが、大きな違いは国民を欺くものである。重要な問題については内外のクリティペーパーに目を通す必要がある。
そこでニューヨーク・タイムズのオバマ・安倍会談に関する記事を見てみた。書き手は東京支局長のマーティン・ファッカー氏だ。この人の講演は聞いたことがあり、日本語に堪能でジャーナリストとしても高い見識を持つ人だったことを確認した。
記事は以下のようなことを報じている。
- オバマ大統領の横に座っていた安倍首相は「私は我々の同盟に信頼trustと盟約bondが戻ってきたと自信を持って宣言できると思う」と述べた。
- 安倍首相の政治顧問達は首相は個人的には交渉参加に賛成しているが、7月の参院選挙を前にしてTPPに懐疑的な米作農家の支持を必要とする重要な問題を抱えている。
- 共同声明では「両国はもし日本がTPP交渉に参加するのであれば、米国が主張するように貿易協定から除外する産品はないということに同意した。
- しかし声明は同時に「両国は両国間で貿易上の敏感な問題~例えば日本の特定の農産物や米国の特定の工業製品など~があることを認識し、日本は交渉に参加することで総ての関税を廃止することを約束するものではないことを確認した。だとしてもeven so、TPP交渉のゴールは関税を撤廃する統合的な協定である。
- 共同声明に対してサンダー・レビン・ミシガン州会員議員は「日本がTPP交渉に参加する前に、交渉は日本の政治と慣習の真の変化につながるものだというクリアで確固たる理解が必要だ」とコメントを述べている。
原則論に固執しようとしたアメリカだが、日本の参院選を見据えて「交渉参加時点における聖域撤廃を否定」を渋々認めたというところだろう。だがうがった見方をすると「それは日本の反対勢力の抵抗を緩和して交渉のテーブルに着かせる」戦術的対応といえるだろう。ゴールは関税の撤廃である。交渉にはレバレッジ、つまり切り札が必要だが、切り札はアメリカの方がたくさん持っている。
私はTPP参加を支持するものだが、国内外の理解のズレが許容範囲を超えた場合、後々修復が困難になることを懸念している。ヘタをすると内外ともにtrustを失う可能性があるからだ。
あなたは日米の思惑をどう判断されるだろうか?
ただし私の結論をいうと、交渉に参加すれば多少の例外は残すとも、やがてはTPP参加となる。それを軸に投資戦略を考える時が来たことは間違いない。