日本株相場は足踏みが続いている。お盆シーズンは相場がダレる時だし、今年前半の上昇が急だったのでお休みと見れば慌てることはないのかもしれない。
だが相場全体が大きく上昇する局面は当分こないだろうと私は考えている。アベノミクスの三本目の矢、つまり経済成長戦略を本気で追求していくならば、優勝劣敗の企業淘汰が行われるはずである。心ある株主は資本効率の高い企業に投資を振り向けることになり、優良企業の株価は上昇するが、それ以外の企業の株価は低迷する。
WSJを見ていると、三井住友信託銀行の小田誠志株式運用部長が「どの会社が企業価値を高めるために投資を行うのが、ファンドマネージャーの仕事だがこれまで十分責務を果たして来なかった。だがそれは機関投資家の努めだと思う。」とWSJのインタビューで述べていた。
小田氏はまた「中核業務にフォーカスする会社と適切な時期に自社株買を行う会社にもっと資金を投資したい」と述べている。小田氏個人としての投資スタンスは世界市場での競争力があることから、自動車とインフラエンジニア企業を選好すると述べていた。また銀行や小売業も内需拡大の追い風を受けるので強気と考えているということだった。
小田氏は約1年前FTのインタビューで「日本企業の幹部は株価にそれほど注意を払っていない。なぜなら彼らは役員報酬を現金で受け取るからである。企業の役員会は外部の金融の専門家の意見より社内意見を尊重する傾向があり、役員会の決定が投下資本の極大化に必ずしも合致するものではない」と述べていた。
因みに1年前はTOPIXが米国S&P500に対して8年ぶりの低水準に近づいていた。円高要因もあるが、基本的に日本企業が株主利益を軽視するということで世界の機関投資家が日本株を敬遠していたと見るべきだろう。
私は約10年ほど前ある信託銀行で企業年金業務に関わっていたことがあるが、その時の株式運用の基本方針はパッシブ(市場連動型)運用だった。パッシブ運用では企業価値の判断を行わない。企業価値は市場が判断する、という立場を取っている訳だ。
だが市場とは何なのだろう?市場とは個々の投資家の人気投票の場である。投資家は美しい会社を選ぶのではない。自分たちの利益を大切にする企業を選ぶのである。大口票を持つ機関投資家の責任は大きいはずだ。
企業年金の運用を行う信託銀行など機関投資家が、積極的に企業の投資価値を判断し、優勝劣敗の判断を下して来なかったことが、日本の株式市場の低迷を招いた一つの原因というと言い過ぎだろうか?
機関投資家が優良企業(資本効率の高い企業)を選別する努力を高めるかどうかが、今後の日本株市場の一つの重要なポイントだろう。