金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本企業の法人税等の負担は本当に重いのか?

2013年08月13日 | 社会・経済

今日(8月13日)の日本株は250円ほど上昇して取引されている。まだ午前中の早い段階なので勢いが持続するかどうかは分からないが、若干の円安(97円30銭程度)と日経新聞で報じられた安倍首相が政府関係部署に法人税の実効税率の引き下げを検討するように指示したことが好感されている。

先日発表されたGDP成長率の内訳を見ると、企業の設備投資が弱かったので法人税率を引き下げて設備投資を刺激しようという狙いなのだろうか?

ところで経団連の米倉会長らがことあるごとに主張しているように「日本の法人税は国際的にみて高い」のだろうか?

財務相のホームページの「実効税率の国際比較」http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htmを見ると、日本(35.64%)は米国(40.75%)についで高い。ちなみに他国の状況はフランス(33.33%)、ドイツ(29.55%)、中国(25%)、韓国(24.2%)だ。

だが法人税(法人所得税と地方税)のみを見るだけでは、企業の実質的な税負担の比較はできない。つまり社会保険料の負担程度を含めて考えないと本当の企業負担の比較はできない。

財務相の資料http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2010/zei001e.htmによると、例えば日本の自動車製造業の場合、国税11.2%、地方税11.8%、社会保険料7.4%合計30.4%となっている。アメリカは国税18.9%、地方税3.5%、社会保険料4.5%合計26.9%、ドイツは国税13.1%、地方税12.2%、社会保険料11.7%合計36.9%、フランスは国税19.3%、地方税22.3%合計41.6%だ。

このデータは色々なことを示唆している。まず税金についていうと「法定の税率」と企業が実際に支払っている税の負担率ではかなり差があるということだ。前述の財務相のデータは注釈によると「財務相がKPMG税理法人に委託して作成した資料」で法人所得課税と社会保険料負担を「税引前当期利益+社会保険料負担」を除して比率を計算している。

ところでトヨタ自動車や日産自動車の実行税負担率は30%以下だ。文藝春秋9月号「法人税を下げる前に企業長者番付の復活を」(富岡幸雄中央大学名誉教授)によると、トヨタ自動車の実行税負担率(法人税等納付額÷税引前利益)は27.1%。どうして法定の税率より実行税負担率が低いかというと「受取配当金の益金不算入」などで税法上の課税所得が低くなっているからだ。

公的医療保険が充実していない米国の場合、企業が従業員の民間保険料を負担することが多い。資料によると米国の自動車産業が負担していたと推定される民間保険料は15.4%。もしこれを企業の税・社会保険料負担比率に加えると米国の自動車産業の負担比率は5割を超えていた(2006年当時の資料でありその後米国の自動車産業は破綻等で大幅に保険料負担を減らしたが)。

なお他の産業について税・社会保険料の負担比率を見ると、情報サービス業では日本44.2%、アメリカ46.7%、ドイツ55.7%、フランス70.1%、銀行業では26.3%、アメリカ27.8%、ドイツ23.8%、フランス31.3%となっていた。

税・社会保険料の負担比率は業種ごとにばらつきが大きいが、数字を見る限りでは日本企業の負担比率は先進国に較べてむしろ低いと思われる。

私は法人税の引き下げに反対するものではないが、「日本の法人税は国際的に見て高い」という意見は余りに表面的過ぎると考えている。企業はモノやサービスを生み出し、従業員に給料を払い、国や自治体に税金と社会保険料を払うことで国民の福祉に貢献している。消費税の引き上げと同時に法人税の減税を行うなら、企業はそのメリットを社会に対してどのように還元するのか示していく必要があるだろう。

コメント (2)
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