金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【書評】「コメの嘘と真実」~中身は地が足についている

2013年08月23日 | 本と雑誌

先日新聞の書籍広告で掲題の「コメの嘘と真実」(角川SSC新書 近正宏光著)を見たのでアマゾンで注文することにした。アマゾンサイトで署名を入力すると、キンドル版(667円)があることがわかったので、ダウンロードして1時間ほどで読んだ。

タイトルや帯封・表紙からはやや挑発的なイメージを受けたが、中身はしっかりしていて、informativeだと私は感じた。それは著者が農業生産法人・越後ファーム代表として、実際にコメ作りの難しさや問題点を実感していることによるのだろう。

幾つか共感したポイントを紹介しよう。

一つは食料自給率の問題だ。以前にも私のブログでも書いたことがあるが、日本の食料自給率が4割程度と低い、という時に拠り所とされるのが、農林水産省が発表しているカロリーベースの自給率だ。自給率の算出方法には「カロリーベース」と「生産額ベース」があり、世界の主流は生産額ベースである。カロリーベースとは国民一人あたりの生産カロリーを一人あたりの供給カロリーで割ったもので、食べ物の熱量が物差しになっている。

私は熱量を物差しとして食料問題を考えるのは、時代遅れで非ダイエット的な考え方だと思っている。以下のことは「コメの嘘と真実」からは離れるけれど、ダイエットつまり健康的な食事の基本は今やカロリーの高い食事をすることではなく、栄養的価値の高いミネラルとビタミンを多く含んだ食事をすることである。ミネラルとビタミンにはカロリーはないけれど、体脂肪を燃焼させて健康を保つ力がある。

カロリーベースの自給率では4割(平成23年度の農水省発表では39%)にしかならない日本の食料自給率だけれど、野菜など加えた生産額ベースの自給率では66%になる。

高齢化が進展する日本では健康な生活を維持するためには、カロリーよりも栄養素を重視するべきで、自給率の計算もそれに従うべきだと私は考えている。

次に「食品においても顧客ニーズの二極化が進んでいる」という視点だ。TPP反対論者の中には777%のコメの関税が廃止されると外国から安いコメが大量に輸入され、日本のコメは壊滅すると主張する人がいる。もし総ての日本人がコメなど食材を選ぶ時「安いこと」をトッププライオリティにすると仮定するならばそのようなことが起こりうるかもしれない。だが実際の消費者の行動は必ずしもそうではない。少しぐらい高くても安心、安全な国産の農作物を買おうという消費者は多いはずだ。また高くても美味しいものを求めるというニーズもある。

私事になるが、このところ輸入果物を避けてできるだけ、国内産の果物を食べるようにしている。長距離を輸送する輸入果物には、防虫剤や防カビ剤が塗布されている。無論食品衛生法の基準はクリアしているので、過度に神経質になることはないだろうが、気になる事実だ。果物の持つ本来のうま味という点からも、樹の上で完熟した国産の果物が、船倉や倉庫の中で熟した輸入果実より美味しいことは間違いあるまい。

「果物のことは分かった。でも保存がきくコメの場合は別だろう」というご意見があるかもしれない。だが著者によるとコメの場合も「よいコメの条件は品質と鮮度」ということで、食の安全に加えて美味さにこだわるならコメの場合も地産地消が一番ということになる。

この点について私も「そうだ」とは思うけれど、残念ながら体験に裏打ちされた意見を述べることはできない。私はコメの鮮度や品質の違いが分かるほどのコメ通ではない。コメのかわりに、コメジュースを嗜みすぎているのだろうか?

ということで中々参考になるところがある本だった、と私は思っている。

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 富士フィルムのインスタントカメラ、売れる理由は?

2013年08月23日 | 写真

昨日(8月22日)富士写真フィルムは、人気のインスタントカメラ・シリーズの最上級機種ミニ90ネオクラシックを9月20日に発売すると発表した。http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0800.html

私はこの手のポラロイド的カメラを使ったことがないし、今後も使う予定はないが、どうしてこの手のカメラに人気があるのか考えてみた。

富士写真フィルムのカメラの出荷量は、2011年の1,170万台から2012年の950万台と減っている。今年度は更に減少して700万台近くまで落ち込む可能性がある。これはカメラ業界全体の傾向にそったもので、デジカメがスマホに食われている結果だ。

だがその場で現像できるインスタントカメラに限ると、市場規模年間2百万台とニッチな市場ながら20-25%程度の成長が見込まれる。数年前にポラロイドカメラがインスタントカメラ部門から撤退したので今インスタントカメラを作っているのは富士フィルムオンリー。小さな市場の独占メーカーである。

WSJに寄せられたツイッターによると、富士写真フィルムの山本正人事業部長は「人々はなにかリアルなものを切望している。フィルムはデジタルな世界でしばしば失われるauthenticity(信憑性、自然さ)を生む」と述べている。

ミニ90ネオクラッシックの価格は19,800円。これは従来機種の価格が6千円程度なのに比べるとかなり高い。従来機種のターゲットが若い女性や子どもだったのに対して、新機種のターゲットは、デジタルネイティブ世代のシリアスなユーザーだ。デジタルネイティブとは生まれた時からデジタルに浸った世代でザクッというと1990年代以降に生まれた人と考えて良いだろう。

この世代の中にデジタルの嘘っぽさに飽き足らない人がいて、フィルムカメラを求めているのだ。

デジタルカメラの嘘っぽさって何か?というと、私は主に2つあると考えている。一つは「カメラの中やパソコンで簡単に写真を合成したり、修正できる」ということだ。もう一つは「デジタル画像のコストはゼロなので、数多くの写真を撮って最良のものを選ぶ」ことができることだ。

例えば一度のシャッターで露出の異なる複数の撮影を行うブランケット機能など便利な機能がある。ブラッケット機能は高級フィルムカメラにもある(と思うが私は持っていなかった)が、フィルム代がかかるのでプロでないと使い難いだろう。

世の中にはこれらの嘘っぽさに飽きてフィルムカメラの真剣勝負を求める人がいて、その人達をターゲットにしたのが富士フィルムの新しいインスタントカメラということだ。

☆   ☆   ☆

このことを少し敷衍して考えると世の中にはまだまだニッチなマーケットはある、と私は思う。

例えば「旅行」の世界だ。「安くて便利で観光スポットの見落としが少ない」パック旅行が売れる一方で、私のように「不便でも手作り。有名スポットを見落としてもかまわないから、自分の気に入ったところに時間を割きたい。その結果コストは容認する」という人間も増えているのでないだろうか?

食についていうと、安さをpriorityに食材や飲食店を選ぶ人がいる一方で、食の安全、味覚を絶対基準にする人もいるはずだ。

消費者をホモエコノミストととらえる時代は終わっている。

インスタントカメラの成功が示唆するところは大きいのではないだろうか?

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