先日新聞の書籍広告で掲題の「コメの嘘と真実」(角川SSC新書 近正宏光著)を見たのでアマゾンで注文することにした。アマゾンサイトで署名を入力すると、キンドル版(667円)があることがわかったので、ダウンロードして1時間ほどで読んだ。
タイトルや帯封・表紙からはやや挑発的なイメージを受けたが、中身はしっかりしていて、informativeだと私は感じた。それは著者が農業生産法人・越後ファーム代表として、実際にコメ作りの難しさや問題点を実感していることによるのだろう。
幾つか共感したポイントを紹介しよう。
一つは食料自給率の問題だ。以前にも私のブログでも書いたことがあるが、日本の食料自給率が4割程度と低い、という時に拠り所とされるのが、農林水産省が発表しているカロリーベースの自給率だ。自給率の算出方法には「カロリーベース」と「生産額ベース」があり、世界の主流は生産額ベースである。カロリーベースとは国民一人あたりの生産カロリーを一人あたりの供給カロリーで割ったもので、食べ物の熱量が物差しになっている。
私は熱量を物差しとして食料問題を考えるのは、時代遅れで非ダイエット的な考え方だと思っている。以下のことは「コメの嘘と真実」からは離れるけれど、ダイエットつまり健康的な食事の基本は今やカロリーの高い食事をすることではなく、栄養的価値の高いミネラルとビタミンを多く含んだ食事をすることである。ミネラルとビタミンにはカロリーはないけれど、体脂肪を燃焼させて健康を保つ力がある。
カロリーベースの自給率では4割(平成23年度の農水省発表では39%)にしかならない日本の食料自給率だけれど、野菜など加えた生産額ベースの自給率では66%になる。
高齢化が進展する日本では健康な生活を維持するためには、カロリーよりも栄養素を重視するべきで、自給率の計算もそれに従うべきだと私は考えている。
次に「食品においても顧客ニーズの二極化が進んでいる」という視点だ。TPP反対論者の中には777%のコメの関税が廃止されると外国から安いコメが大量に輸入され、日本のコメは壊滅すると主張する人がいる。もし総ての日本人がコメなど食材を選ぶ時「安いこと」をトッププライオリティにすると仮定するならばそのようなことが起こりうるかもしれない。だが実際の消費者の行動は必ずしもそうではない。少しぐらい高くても安心、安全な国産の農作物を買おうという消費者は多いはずだ。また高くても美味しいものを求めるというニーズもある。
私事になるが、このところ輸入果物を避けてできるだけ、国内産の果物を食べるようにしている。長距離を輸送する輸入果物には、防虫剤や防カビ剤が塗布されている。無論食品衛生法の基準はクリアしているので、過度に神経質になることはないだろうが、気になる事実だ。果物の持つ本来のうま味という点からも、樹の上で完熟した国産の果物が、船倉や倉庫の中で熟した輸入果実より美味しいことは間違いあるまい。
「果物のことは分かった。でも保存がきくコメの場合は別だろう」というご意見があるかもしれない。だが著者によるとコメの場合も「よいコメの条件は品質と鮮度」ということで、食の安全に加えて美味さにこだわるならコメの場合も地産地消が一番ということになる。
この点について私も「そうだ」とは思うけれど、残念ながら体験に裏打ちされた意見を述べることはできない。私はコメの鮮度や品質の違いが分かるほどのコメ通ではない。コメのかわりに、コメジュースを嗜みすぎているのだろうか?
ということで中々参考になるところがある本だった、と私は思っている。