Numbers Don't Lie(数字はウソをつかない)のトピックは独立しているので一つのトピックだけを読んでも十分内容を把握できるし参考になることが多い。
ただしConcerns about Japan's future(日本の将来に関する懸念)、How far can China go?(中国はどこまで行くのか?)、India vs. China(インド対中国)はまとめて読んだ方が良いだろう。
なぜなら筆者は日本の現在と中国の30年先が重なるのではないか?と示唆しているからだ。またインドと中国の比較も興味深い。
さて今日は「日本の将来に関する懸念」を見ておこう。
- 1973年ホンダは初めてシビックを米国に輸出した。そして1980年までに米国における日本車のシェアは3割に達した。
- 1978年に日本は米国に次ぐ世界第二位の経済大国になった。それから約10年日本の好調は続くが1990年代に入るとバブルが崩壊して2000年の日経平均は1990年の半分になってしまった。
- また以前は比類ない信頼性で知られていたトヨタやホンダといった自動車ブランドもタカタのエアバック問題で何百万台という車をリコールしている。
- 2011年の東日本大震災と福島原発事故、予想不能な北朝鮮問題、悪化する中国と韓国との関係など日本は問題山積みだ。
- だがよりファンダメンタルな問題は高齢化と人口減少だ。65歳以上の割合は既に1/4を上回っているが2050年までには人口の4割が65歳以上になる。また現在127百万人の人口は2050年までに97百万人に減少すると予測される。そうなれば誰が日本の優れたインフラを維持するのだろうか?また誰が数百万人の高齢者の世話をするのだろうか?
- 日本の政府はこの問題を解決する方法を模索している。しかしゲリマンダー選挙区の日本では抜本的改革は容易ではない。中規模程度の移民策や近隣諸国の真の平和な関係構築も熟慮できないのである。
以下は著者ヴァーツラフ・スミル氏が言外に言いたいことを私が勝手に推測したものである。
- 現代の総ての戦争の中で最も無謀な太平洋戦争を始めた日本には「数字を踏まえて将来を熟考する」習慣がない。太平洋戦争直前の1940年の鉄鋼生産量でアメリカは日本の10倍であり大戦中にその差は更に拡大した。
- 1970年代後半から80年代にかけて日本は米国市場を席巻する輸出攻勢でGDPを伸ばしたが、それは人口ボーナス(生産人口が従属人口を上回っている状態)のメリットを最大限に生かしたと考えらえる。しかしこのような背伸びは長続きしない。日本のピークは短期間に終わり、これからは長い人口オーナス(従属人口の伸びが生産人口のそれを上回る状態)が続き経済成長を見込むことが難しい。
- これらのことを眺めると日本にはよその国を目標にして頑張る習慣はあっても、どうすれば自分の国を長期的・安定的に成長させることができるかということを考える習慣はない。
投資家という観点から日本の問題を考えた時、私はあまり投資の軸足を日本に置きたいとは思わない。
会社の従業員の場合は自社株投資リスクというものがある。つまり会社の持ち株制度を利用して、お給料から自分の会社の株を買っていると万一会社が倒産した場合、フローの収入もストックの資産も同時に失うというリスクだ。
ストックのリスク分散という点では海外に分散投資を行うに越したことはない、ことを改めて教えてくれるトピックであった。これまた著者の意図とは異なるだろうが。