金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国は発展途上国 or 先進国?

2009年11月25日 | 社会・経済

今朝ワイフが「中国では余り電気自動車は売れないとラジオが言っていた」というので、その理由を聞いてみると「中国では電気は盗んで使うものという意識があるので、わざわざお金を払って充電することはない」とラジオが解説していたということだ(「盗電して充電すればよいのではないか?」という疑問が残る回答である)。

そのラジオ放送が面白半分の放言をしていたのか根拠のある話をしていたのか確かめる術(すべ)もないが、我々の深層心理の中には「中国は未開な国ではないか?」という意識があり、それが刺激されるとある種のカタルシスを感じる傾向がありそうだ。ラジオのコメンテーターはその辺りをたくみにくすぐったのだろう。

確かに中国では盗電は多い。もっとも盗電が多いのは中国だけではなく、インドなどその他の発展途上国では盗電は多い。では盗電や海賊版ソフトの横行をもって中国を発展途上国というべきなのか?そもそも発展途上国と先進国の線引きとは何だろうか?

発展途上国と先進国の線引きについてフィナンシャル・タイムズの中国スペシャリスト・James Kynge氏は「先進国と発展途上国に二極化する見方は政治地政学的な策略で、ある種の幻想を起こす」と述べている。

Kynge氏は幾つかの分野で中国が既に世界のトップの位置にいることを示す。

  • 中国は米国の最大の債権国である
  • 中国はGDPで今年または来年に日本を抜き世界第2の経済大国になる
  • 中国はドイツを抜いて世界一の輸出国になった
  • 中国のA株の時価総額は今年6月に東証を抜きニューヨークに次ぐ世界第2位になった
  • 中国はインドを抜いて世界一の金の購入国になった
  • 中国は世界は世界一の二酸化炭素排出国であるが、同時に世界一の再生エネルギー利用国になろうとしている

Kynge氏は中国のアフリカに対するコミットメントにも注目している。世界貿易に占めるアフリカのシェアは1983年の4.6%から2007年の2.6%に低下している。その中でBric諸国のアフリカ貿易は2000年の223億ドルから2008年の1,660億ドルに大幅に拡大している。この中で中国は約3分の2を占めている。現在のところアフリカの最大の貿易相手国は米国で今年前半の貿易額は394億ドルだ。同時期の中国の対アフリカ貿易額は371億ドルと肉薄している。Kynge氏は5年以内に中国が米国を大きく抜いて、アフリカの最大のパートナーになると予想している。

☆   ☆   ☆

このように見ると中国を「発展途上国」と分類することは確かに判断を誤らせるものだろう(もっとも中国も自分の都合で「発展途上国」になったり「アメリカと対等な国」になったりするが)。

また歴史的な観点からも中国(およびインド)を「発展途上国」と分類することは「失礼なこと」というべきかもしれない。日本が日清戦争で勝利したのは1984年今から115年前のこと。また初めて中国が列強に屈したアヘン戦争は今から170年程前の1840年のこと。これらの戦争より前は中国は世界一の大国と思われていたのだ。中国数千年の歴史から見ると百年や二百年の停滞は大したことではないのかもしれない。後世千年単位で歴史を振り返ると「19世紀の中頃から百年程夷狄の侵略を受け、その後暫く経済的低迷が続いた時期があったが、21世紀前半に中国は再び世界一の大国になった」と記述されるかもしれない。

と考えると中国には「ほめ殺し」作戦の方が良いようだ。つまり「あなた達は世界一の大国なんだから、特許権や著作権の侵害を取り締まるべき立場なんですよ」と。

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みずほ、最悪の自己資本比率2%

2009年11月25日 | 金融

この話題は昨日ロイター・ニュースで読んだので、昨日エントリーしたかったのだが、プロバイダーのサーバー停止で掲載する機会がなかった。

さて本題である。格付機関S&Pは月曜日に世界のトップ45の銀行について、Risk-adjusted capital (RAC) ratioを発表した。これはS&Pが独自の基準で銀行の資本や負債の調整を行った「自己資本比率」で、来年早々にも導入が予定されている新自己資本規制の先駆けをなすものだ。

S&Pによると45行の平均RACベースの自己資本比率は6.7%で、3分の2の銀行は平均以下だ。自己資本比率の低さが目立つ銀行はCiti(2.1%)、UBS(2.2%)、一番自己資本が低い銀行はみずほで2%である。

一方自己資本比率が一番高い銀行はHSBCで9.2%。これにゴールドマン(8.3%)、カナダのトロントドミニオン(8.3%)が続く。モルガンスタンレーも8.1%と高かった。

RACでは優先株等ハイブリッド・キャピタルを中核自己資本から控除しているため、ハイブリッド・キャピタルの比率が高い邦銀は総じてRACベースの自己資本比率は低くなり、反対にカナダやベネルクス諸国の銀行の自己資本は高くなっている。

自己資本比率問題はいつも邦銀を苦しめる。オリンピックで日本勢がメダルを取ると次回から自分達に有利になるように、競技ルールを変える発想と共通するところがあると思わざるをえない。

しかし不満はさておき、国内に収益拡大の機会が少ないメガバンクは、海外展開を図らざるを得ないので、新自己資本規制を強く意識した資本政策や投融資政策を取ることになる。

特にS&Pで最低の自己資本比率と決めつけられたみずほの動きには要注意だ。

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「坂の上の雲」の虚構

2009年11月23日 | テレビ番組

今年のNHK大河ドラマ「天地人」は例年より早く昨日(11月22日)本編が終了した。そして来週から「坂の上の雲」の第1部が5週連続で放映される。産経新聞に連載された司馬遼太郎の「坂の上の雲」が文庫本になったのは、1978年のこと。私はこの小説が文庫本になる時を待っていて読んだ記憶があるので30年前のことだ。

「坂の上の雲」を最初に読んだ時、私が一番感銘を受けた人物は秋山好古でその思いは今も変わらない。秋山好古に感銘を受けた理由は彼が弱小な日本の騎兵隊を率いて、世界最強と言われたコサック騎兵に勝利したこともあるが、それよりも彼が陸軍大将を退役した後、乞われるままに郷里・松山の中学の校長を黙々と務めたことにある。

秋山好古は元帥位への推薦の話もあったが固辞している。また晩年は自分の武勲を自慢することなく、「日露戦争の話をして欲しい」と頼まれても一切断っていたと聞く。これらのエピソードを見ると秋山好古という人の人格の奥床しさが見えてくる。司馬遼太郎の筆は秋山好古に関しては良くその人物をとらえていると私は感じている。

ところで司馬遼太郎はこの小説を書く際に「フィクションを禁じて書くことにした」と述べている。それ故「坂の上の雲」の読者やテレビドラマの鑑賞者は、「坂の上の雲」を事実と思うかもしれないが、重要な点で虚構があることを指摘しておきたい。

重要な点で虚構があるというのは、「日本海海戦の勝利は東郷平八郎の何事にも動じない不動の指揮と秋山真之(好古の弟)の鬼謀によってもたらされた」という偽りの美談をそのまま採用しているからだ。

「坂の上の雲」の東郷長官は「バルチック艦隊はどの海峡を通ると思うか」と問われ、「それは対馬海峡よ」と言い切っている。しかし新資料により真実に迫った中村彰彦氏の「海将伝」(連合艦隊参謀長の島村速雄少将(当時)の生涯を描いた小説)は次のように述べている。

バルチック艦隊がどのルート(対馬水道、津軽海峡、宗谷海峡のいずれか)を通るか判断に迷っていた連合艦隊司令部は指揮下の各艦隊の司令長官、参謀長を旗艦「三笠」に集結して会議を持つ。会議中東郷は休憩室にこもり自分の意見は言わなかった。会議では「すみやかに連合艦隊を北方へ移し、津軽海峡ないし宗谷海峡の通過をまつべし」という意見が大勢を占めた。この時汽艇の故障で遅れて到着した島村(日本海海戦の少し前に第二艦隊第二戦隊司令官に転出していた)は、休憩室の東郷を訪ねた。東郷の精悍な風貌には明らかに迷いの色が滲んでいる。それを見て島村は意を決して自説を伝えた。「私は、敵に海戦というもおを知っている提督がひとりでもいるならば、敵はかならず対馬水道にくる、と考えます」

日本海海戦の伝説は「東郷と秋山」を際立たせるため、島村速雄という清廉な名将の功績を無視した。そして「坂の上の雲」もこの虚構の軌跡の上にある。

では何故日本海軍はこのような虚構を事実として通してきたのか?

これについて私は3つの理由があると考えている。一つは戦勝に対する論功行賞の取り合いである。半藤一利氏は「海将伝」の解説の中で「マイナスとなるような記録はすべてといっていいほど抹殺された」と述べている。日露戦争後三階級特進で伯爵になった東郷に迷いがあってはいけないということだ。

次の理由は軍縮に反対する海軍の頑迷な一派が東郷元帥を切り札として担ぎ出したことである。切り札となるため東郷は聖将・神将として無謬伝説の中に生きる必要があった。

最後の理由は「連合艦隊解散ノ辞」に萌芽が見られる精神主義の権化として、東郷・秋山を必要以上に祭り上げたことだと私は考えている。

「連合艦隊解散ノ辞」は東郷連合艦隊司令長官の挨拶を秋山真之が起草したもので、趣旨は不断の訓練の必要性を説いたものだ。だが私は次の一節が日本軍の過度の精神主義を助長する上で護符の役割を果たしたのではないかと推測している。

「百発百中の一砲能(よ)く百発一中の敵砲百門に対抗し得るを覚(さと)らば我等軍人は主として武力を形而上に求めざるべからず」

百発百中の大砲一門は、百発打って一発しか当たらない大砲百門に対抗できることを覚れば、軍人と主に武力の源泉を形而上的なもの~無形の実力~に求める必要がある・・という趣旨だ。

日本海海戦において錬度の高かった連合艦隊が錬度が低く、長旅で疲れていたバルチック艦隊に勝利した理由の一因を錬度の差や士気の差に求めることは正しい。

しかしこのことを重視する余り兵器の優劣を見落としてはなるまい。例えば日本海軍の徹甲榴弾は爆発力の強烈は「下瀬火薬」を内包した上、爆薬量はロシアの砲弾の5倍位あった。この砲弾の破壊力の違いが日本に勝利をもたらした面を忘れてはならないだろうと私は考えている。

☆   ☆  ☆

やや堅苦しい歴史談義になったが、一般的に信じられている「歴史的事実」が時として作られた伝説である一例として紹介した。このようなことを考えながらドラマ「坂の上の雲」を楽しんでみたいと思っている。

なお寡聞にして秋山好古と島村速雄の間に何か接点があったかどうかは知らない。しかし私は自分の武功を誇ることなかったこの二人こそその後の日本人が尊敬するべき軍人だったろうと考えている。そうであればその後の誇大妄想的な戦争に巻き込まれることはなかっただろうと私は感じている。

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米英日の国債デフォルトスワップ、取引残高が増える

2009年11月23日 | 金融

デフォルトスワップ、正確にいうとCredit Default Swap(CDS)とは対象債権の債務不履行リスクをカバーする一種の保険だ。通常CDSは債務不履行リスクが高い債務者に関して多くの取引が行われる。

ところがファイナンシャル・タイムズによると米英日など先進国の国債を対象としたCDSの取引残高がこの1年で倍増している。英国の国債を対象としたCDSは120億ドルから240億ドルへ、米国債のCDSは40億ドルから100億ドルへ、日本国債のCDSは70億ドルから150億ドルに増えている。

これは金融危機後が、各国政府が景気対策のため政府予算を拡大させ、財政状況が急速に悪化しているため一部の投資家がデフォルトリスクに目を向けいてるからだ。

国のデフォルトリスク(ソブリン・リスク)の世界で対比されるのが、先進国のイタリアと発展途上国のブラジルだ。イタリア国債のCDS取引残高はこの1年間で4割以上増えて1,510億ドルから2,160億ドルになった。一方ブラジル国債のCDS取引残高は1490億ドルから1250億ドルに16%減少している。これはブラジルの好調な経済状態と健全な財政状況が反映されたものだ。

実際イタリアの公的債務のGDPに対する割合は2006年の117.2%から2010年(見通し)の127.3%へと悪化している。一方ブラジルの公的債務比率は06年65.5%、10年65.4%と健全だ。

先進国で公的債務比率が最悪なのは日本で、172.1%(2006年)から199.8%(2010年)に更に悪化する見通しだ。

米英日の国債CSDの残高が増えているとはいえ、国債残高に較べるとまだ微々たるものだ。例えば日本国債のCDS残高150億ドル(1兆4千億円弱)は、10年国債の1回の発行額程度の金額だ。従って米英日の国債デフォルトリスクを真剣に懸念している人はまだまだ少数である。むしろ多くのヘッジファンド・マネージャー達は国債増発による金利急上昇リスクを懸念している。国債CDS取引残高は国債の価格下落リスク(=金利上昇リスク)のベルウェザー(兆候)と考えておいて良いだろう。

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Pull one's punches (イディオム・シリーズ)

2009年11月22日 | 英語

Punchはパンチである。「パンチを引く」ということから想像できるように、pull one's punchesは「手心を加える」とか「言葉をやわらげて言う」という意味だ。

オバマ大統領の訪中を論評したニューヨーク・タイムズに次の一文が出ていた。

But publicly, Mr. Obama pulled his punches on China’s exchange rate, saying only that Beijing had promised previously to move toward a more market-oriented rate over time.

「しかしおおやけには、オバマ大統領は中国政府は将来的には市場による外国為替レート方式に向かうと以前から約束していると言うだけで、為替問題について手心を加えた」という意味だ。

「おおやけには」ということは、秘密裏には中国トップとオバマ大統領の間で何らかの暗黙的な了解があるかもしれないということだ。

今回のオバマ大統領の訪中については「具体的な成果がない」「譲歩しすぎだ」という批判がある。その中でニューヨーク・タイムズは好意的で「オバマ大統領が選ばれた理由の一つは、世界的な問題についてより協調的で功利的なアプローチを取るということにある。我々はそれを支持する。オバマ大統領のソフトなアプローチが成功するかどうかの判断は数ヶ月を要する」と述べている。

ただし同紙は最後に「米国の大統領は我々の中核となる利益と価値を守るためには常に中国政府と敢然と立ち向かわねばならない」と結んでいた。

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