今朝ワイフが「中国では余り電気自動車は売れないとラジオが言っていた」というので、その理由を聞いてみると「中国では電気は盗んで使うものという意識があるので、わざわざお金を払って充電することはない」とラジオが解説していたということだ(「盗電して充電すればよいのではないか?」という疑問が残る回答である)。
そのラジオ放送が面白半分の放言をしていたのか根拠のある話をしていたのか確かめる術(すべ)もないが、我々の深層心理の中には「中国は未開な国ではないか?」という意識があり、それが刺激されるとある種のカタルシスを感じる傾向がありそうだ。ラジオのコメンテーターはその辺りをたくみにくすぐったのだろう。
確かに中国では盗電は多い。もっとも盗電が多いのは中国だけではなく、インドなどその他の発展途上国では盗電は多い。では盗電や海賊版ソフトの横行をもって中国を発展途上国というべきなのか?そもそも発展途上国と先進国の線引きとは何だろうか?
発展途上国と先進国の線引きについてフィナンシャル・タイムズの中国スペシャリスト・James Kynge氏は「先進国と発展途上国に二極化する見方は政治地政学的な策略で、ある種の幻想を起こす」と述べている。
Kynge氏は幾つかの分野で中国が既に世界のトップの位置にいることを示す。
- 中国は米国の最大の債権国である
- 中国はGDPで今年または来年に日本を抜き世界第2の経済大国になる
- 中国はドイツを抜いて世界一の輸出国になった
- 中国のA株の時価総額は今年6月に東証を抜きニューヨークに次ぐ世界第2位になった
- 中国はインドを抜いて世界一の金の購入国になった
- 中国は世界は世界一の二酸化炭素排出国であるが、同時に世界一の再生エネルギー利用国になろうとしている
Kynge氏は中国のアフリカに対するコミットメントにも注目している。世界貿易に占めるアフリカのシェアは1983年の4.6%から2007年の2.6%に低下している。その中でBric諸国のアフリカ貿易は2000年の223億ドルから2008年の1,660億ドルに大幅に拡大している。この中で中国は約3分の2を占めている。現在のところアフリカの最大の貿易相手国は米国で今年前半の貿易額は394億ドルだ。同時期の中国の対アフリカ貿易額は371億ドルと肉薄している。Kynge氏は5年以内に中国が米国を大きく抜いて、アフリカの最大のパートナーになると予想している。
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このように見ると中国を「発展途上国」と分類することは確かに判断を誤らせるものだろう(もっとも中国も自分の都合で「発展途上国」になったり「アメリカと対等な国」になったりするが)。
また歴史的な観点からも中国(およびインド)を「発展途上国」と分類することは「失礼なこと」というべきかもしれない。日本が日清戦争で勝利したのは1984年今から115年前のこと。また初めて中国が列強に屈したアヘン戦争は今から170年程前の1840年のこと。これらの戦争より前は中国は世界一の大国と思われていたのだ。中国数千年の歴史から見ると百年や二百年の停滞は大したことではないのかもしれない。後世千年単位で歴史を振り返ると「19世紀の中頃から百年程夷狄の侵略を受け、その後暫く経済的低迷が続いた時期があったが、21世紀前半に中国は再び世界一の大国になった」と記述されるかもしれない。
と考えると中国には「ほめ殺し」作戦の方が良いようだ。つまり「あなた達は世界一の大国なんだから、特許権や著作権の侵害を取り締まるべき立場なんですよ」と。