米国のヘンリー・ポールソン財務長官が日本から中国へと回っている。ゴールドマンザックスの会長を務めたポールソン財務長官は中国に金融先物市場を作ることをアドバイスしている。無論同財務長官が中国政府等に言っていることは「先物を導入することで市場の安定性を高められる」ということだが、金融先物が米国の金融機関にビジネスチャンスを提供することも事実だ。
最初に伝道師が布教に来てその後商人が通商にやってくる。もし相手が通商に応じれば商売をする。相手がとろくて、商売で鞘が抜ける時は徹底的に鞘を取る。またもし相手がビジネスに応じない場合は力ずくで市場をこじ開ける・・・・・・これが欧米がアジアに進出してきた方法である。さて先物の伝道師ポールソンはどの様に中国の先物市場を開いていくだろうか?3月8日のウオール・ストリート・ジャーナルはこう述べる。
- 中国株は先週の大幅下落から反発した。しかしこれは大きな疑問を投げかける。それは「中国政府は急騰と崩壊の循環を特徴とする中国の金融市場を制御することができるか?」ということだ。
- 今回の反応は特定の活動をストップさせるものよりは長期的にはバブルのガスを抜く効果があると思われる金融商品の導入にあるように見える。
過去の例では1995年に国債先物市場が崩壊した時金融先物取引が禁止されり、2005年に銅の先物が急騰した時北京政府はあ特定の業者を上海先物市場から締め出したことがある。
今週ポールソン長官は上海先物取引所でスピーチを行なった。皮肉なことに先物取引所は建物だけでそこで取引される商品は今のところないそうだが。
ポイントは「資本市場に対するより多くの開放とより少ない規制が金融システムの安全性の鍵だ」「効率的で発達した資本市場は資源をもっと効率的・効果的に配分し、中国は全国に繁栄を広げながら健全な速度で経済発展を遂げることができる」ということだ。
彼は又「よりアクセスしやすく、流動性の高い債券市場の開発」「機関投資家市場の開発」「強力な会計とガバナンス標準の開発」を含む市場改革を熱心に勧めた。そして「これらの補強がないと中国の発展はバランスの欠けたものになる」という。そして彼は「より多くの海外勢の金融市場参加を認めることが改革の速度を上げる」という。
ウオール・ストリート・ジャーナルはこれに呼応する中国人の意見も紹介する。Xiangcai(先財?)証券のチーフエコノミストは「中国は産業の巨人だが、資本市場はこびとdwarfだから変革が必要だ」という。
Dwarfには単なる「こびと」という意味もあるが、「魔力を持つこびと」という意味もある。この場合は、まあ、単なるこびとだろうが。
それにしてもポールソン長官という男は中々戦略性がある。彼は中国に強力な資本市場を構築することで外国為替レートの市場型に移行させる基盤を作ろうとしているのだ。
株式先物市場が創設されると、市場はより二方向型になると考えられる。つまり先物市場がないと相場が上がる時しか投資家は利益を上げることができないが、先物取引ができると下降局面でも利益を上げることが可能なので、相場が一方向に傾くのを緩和するという理屈だ。
実際中国証券規制委員会(いい加減な訳)のファン副会長は株価指数先物を今年前半にスタートさせたいという意向を発表している。
それにしてもアメリカという国は戦略的思考ができる国だ。ポールソン長官は「中国の金融市場が発達することは、経済の製造業依存度が低下して天然資源の消費の集中を緩和する」とも演説した。まとめていうと金融先物市場が出来ると中国の株式市場の乱高下が緩和され、中国の経済発展が持続可能ペースになり、都市・農村の不均衡が緩和され、資源依存型経済が付加価値型経済に変わるという中国にとって良いことのてんこ盛りなのだ。しかも元のレートが自由化つまり対ドルで元高になり、アメリカにとってもハッピー。そして金融商品やノウハウを販売するアメリカの金融機関等もハッピー。さすがは生き馬の目を抜く証券会社のトップを務めた人の話である。中国人が8掛けで聞いても乗りたくなってくるだろう。
このようなビッグチャンスを隣にいる日本はもっと利用できないものだろうか?ポールソン氏が財務長官になるということは野村證券の氏家会長が財務大臣になる様なものだ。氏家さんが大臣になりたがっているとも思わない(10年程前食事をした時の感じでそう思っているだけだが・・・)が、中国を始めとするアジア諸国に日本の民と官がもっと手を携えて「金融業」の輸出を図る時代ではないだろうか?
先物の伝道師ポールソンから日本が学ぶべきことは多いのである。