私の最近のブログの中でアクセスが最も多かったのは「日興の上場廃止」である。私は日興の不祥事が公表された時、ウオール・ストリート・ジャーナルの記事を読んで「これは上場廃止になる。恐らくかなり高い確率でシティがビッドする」と判断して、風説の流布にならない程度にブログを書いた。
その時から思っていたが、ウオール・ストリート・ジャーナル・シティ・日興コーディアルの株を大量に買った外資ファンドの間には何か暗黙の了解があった様な気がしていた。いや彼等がつるんだり、情報を交換したりしていると考えるのは誤りだろう。彼等は大きな流れの中で個々の情報を解釈した結果「日興の上場廃止・シティのTOB」というシナリオに進む可能性が一番高いと判断したはずである。
では彼等はどのような情報からそのような判断を下していったのだろうか?これは私の推測に過ぎないけれど、シティは金融庁の意向を的確に読取っていた様だ。例えば日経新聞は「シティのピーターソン在日最高責任者は金融庁と太いパイプを持つ。・・・ある関係者は『焼酎を酌み交わすこともあった』と解説する」。焼酎を酌み交わすことが良いことなのかどうか知らないが、ピーターソン氏が金融庁の意向を汲み取っていたことは間違いない。
では金融庁やその背後の政治家の意向とは何なのだろうか?それは東京をニューヨークやロンドンに並ぶ金融センターにしようということだ。勘ぐれば「東京をそのような金融センターにしましょう」と誰が金融庁に将来像を示したのかもしれない。
7日のウオール・ストリート・ジャーナルは次の様に書く。
- 東京市場はその規模にも係らず、グローバル・ビジネスへの開放性で他の主要な金融センターに後れを取る。米国では経済の8.1%、英国では8.3%を金融セクターが占めるが日本は6.5%に過ぎない。
- 東京証券取引所に上場する外国企業は全体の1%だが、ニューヨークでは上場企業の14.2%、ロンドンでは19.6%が外国企業である。
- 昨年のM&Aアドバイザリー業務は、ディールのボリュームベースでゴールドマン、UBS、日興シティの3社が上位を占め、野村證券は4位だった。
シティのピーターソン代表は「これは思いがけず生じた稀なチャンスだ」「(個人が)預金者から投資家に変わろうとしているのでリティル市場は拡大が見込める」と述べる。
シティは日本の消費者金融部門の8割を閉め415百万ドルの損失を計上した。このためシティが2006年に日本で得た利益は5年前の64%の391百万ドルにしかならなかった。しかし消費者金融部門からの速やかな縮小は評価されるべきだろう。特にオリエントコーポレーションを抱えるみずほが2千億円の資本支援に踏み切ることとの対比で見ると外銀の逃げ足の速さと攻めの鋭さが浮かび上がる。
これは歴史に例を求めれば、織田信長の金ヶ崎での形振り(なりふり)かまわぬ撤退とその後の姉川での浅井・朝倉に対するリベンジに似ている。
その疾(はや)きこと風の如く、その徐(しずか)なることは林の如く、侵掠することは火の如く、動かざることは山の如く、知り難きことは陰の如く、動くことは雷ていのごとし。
風林火山の旗を掲げたのは武田信玄だが、実践においては信長の方が上だったかもしれない。そして今見えざる風林火山の旗を靡かせながら、東京金融市場を駆け回っているのはシティなどの外銀である。
なお孫子はNHK大河ドラマ等で一般にも有名だが、その教えの真髄は情報の重要性である。孫子は用間編で「明君賢将の人に勝ち、成功すること衆に出ずる所以(ゆえん)のものは先に知ればなり」と諜報活動の重要性を説く。
情報(諜報)活動と機敏な動き・・・・2千5百年程前に中国で書かれた孫子の兵法は戦国時代に日本で活用され、そして今外銀に活用されている。今度ピーターソン氏に会ったら「あなたは孫子を読んでいるの?」と聞いてみようか?