私のブログの読者から「金融や株の話は分からないけれど写真はきれいですね」というコメントを貰うことがある。金融や株についてはできるだけ、分かり易く書いている積りだが、難しいのだろうか?
これから書く話は今週の世界同時株安が一時的なものか?それとも持続するか?ということに関するエコノミスト誌の記事を解説するものだが、普通私が書いているブログより内容は難しい。従って余り興味のない人はこの辺でオヤメになることをお勧めする。
さてエコノミスト誌の記事Grey Tuesdayの記事をよく読むと株安が持続する可能性はかなり高いという気がするが、そのポイントを少し紹介しよう。
- 突然の株価下落の理由を後で見つけることは常に可能だが、事前に列挙することはたやすくない。今週火曜日の株式下落の触媒は中国株式の9%近い下落であり、それは中国政府が投機的な株式取引の取締りを行なうのではないかという憶測で引き起こされた。しかし真実は単に投資家が利食いをする言訳を探していたに過ぎない。
- 下落は遅すぎた様に見える。ウオール・ストリート街=証券界は50年以上も連日2%の下落を続けることもない良い時期を享受してきた。しかし一旦売りが始まるとその勢いは凄まじく、ニューヨークの午後3時頃極短い間にダウは数百ポイント下落した。
- この急速な下落はダウ平均を計算するシステムの停滞により引き起こされた。3時にバックアップシステムに切り替えたが、これがトリッキーだった。つまり計算が遅れた分、巨大なダウの下げが一時に表示されたのだ。またフロアトレーダーがコンピューターによる注文特にインデックス連動のETF(上場型投信)の売り注文をこなせなかったことも問題だった。
ここでエコノミスト誌は「この株価下落が短期的な暴落かそれとも重大なコレクションかを決めるのは、経済全般(つまりファンダメンタル)ではなく株式市場の内部的な力学だろう」と示唆し、ボラティリティの高まりに注目する。
- ボラティリティが低い期間はリスク・テイクを勇気付けた。ヘッジファンドは高い利回り(そして高いリスクを持つ)資産を買い、低い利回りの資産を売る自然な傾向がある。これがキャリートレードだ。しかしこれらのポジションが市場がよろめくと直ぐに損失につながる。例えば2月27日に円がドルに対し2.3%上昇したが、これでキャリートレードの半年間の利益を吹き飛ばすことになる。そこでキャリートレードをしている者は損切りをするだろう。
市場参加者が急速に資産の売却に動くと資産の価格の値動きが激しくなる。つまりボラティリティが高くなる。ボラティリティが高くなるということはバリューアットモデルでリスク管理を行なっている投資銀行等がリスク資産に対する資本配布を減らすことを意味する。つまり資産の売却に動くということだ。
ボラティリティの増加がボラティリティを増加させるのである。株式市場のボラティリティの尺度にVIXがある。VIXとはChicago Board Option Exchange Volatility Indexのティッカーシンボルであり、S&P500のインプライド・ボラティリティの尺度だ。これは市場が予測する向こう30日間のボラティリティを表すもので、恐れのインデックスとも呼ばれている。
VIXは年率で示される。VIXが15ということは、月に換算すると15%÷√12=4.33%ということである。これは仮にS&P500が1000とすると向こう30日の間に68%の確率(つまり1標準偏差)でS&P500は43ポイント以上上がり下がりしないということを意味する。また同様に95%の確率(つまり2標準偏差)で、87ポイント以上上下しないということを意味する。(因みに一昨日のVIXは18.31でこれは月ベースでみると5.28%のボラティリティになる。)
にわかには信じられないことだが、ゴールドマンザックスによると暴落時にVIXの値が平均に比べて8標準偏差分飛び跳ねたという。8標準偏差ということは知りうる歴史の中では起こらないということだが。しかし昨年破綻したヘッジファンド・アマランチは9標準偏差の出来事で破綻したということだ。
エコノミスト誌はロングビューエコノミック社のストラテジストの言葉を引用している。
セルオフ(激しい売り)は単に警告に過ぎない。投資家は向こう数週間の間に更なる売りがあると予想するべきである。
これは余談だが、もし今回の暴落が金融機関等に大きなダメージを与えることがあると、リスク測定モデルの見直しを迫られるだろう。株式市場等のリスクは正規分布よりもとっと裾広く分布する~ロングテールというが~が、クローズアップされそうだ。