今日のウオール・ストリート・ジャーナルにオフィスビルに関する二つの記事が出ていた。一つは東京ミッドタウンに関するもので、もう一つはインドのムンバイに関するものだ。この二つの記事を読むと今世界のオフィスビル需要が急増していることを実感するとともに世界経済の二極化を痛感する。
投資の観点から見ると、今日本だとかインドだとかの区別は余り意味がない。意味があるのは「世界経済につながっているかどうか?」ということである。
まず記事のポイントを見てみる
- 今東京では92の高層ビルが建築中、これはニューヨークの119件について世界で2番目、因みにロンドンでは68件、北京では52件の高層ビルが建築中である。
- 東京ではプレミアムクラスのオフィスビルの供給は成長企業の需要に追いつかない。東京のビジネス中心街の空室率は2005年12月の4.2%から昨年末の2.9%に低下している。
- ベテランの不動産投資家達は2つのトレンドがあるという。つまり都市部での不動産価格の上昇と地方での下落である。日本は工業主導経済からサービス主導経済にシフトしつつある。幾つかの企業は工場を海外に移転し、中国やインドの低賃金メリットを享受している。しかしそれらの企業でもマーケッティング部門と財務部門は日本に置いている。従って工場用地のニーズはないが、オフィスの需要はある。
- 不動産投資会社ダビンチ・アドバイザーズの金子社長は「東京に関する限り私は強気だが、日本のそれ以外の土地については極めて楽観的という訳ではない」という。
ウオール・ストリート・ジャーナルは東京ミッドタウン程、日本の経済転換の見本はまずないだろうと結ぶ。それはステート・ストリート銀行や日興アセットマネジメントを含むほとんど総てのテナントがサービス業だからである。
なお私のコメントを付け加えるならステート・ストリート銀行はカストディ専門銀行であり、投資信託や年金基金による証券投資のバックオフィスである。つまりサービスセクターの中で証券投資に係るところはかなり大きいということだ。
次にムンバイに眼を転じよう。
- ムンバイのビジネス中心街というサブマーケットは世界の176の主要都市の中で7番目に高いところである(リチャード・エリス社調べ)。因みに一番高いのはロンドン西部で212ドル/sfでムンバイは106.09ドル/sf。
- ムンバイのオフィス中心街には、高い経済成長を続けるインドの消費者の需要を狙った米国等の外資系金融機関の需要が高い。
- 人口12百万人のムンバイは貧困、人口過密、下水道等のインフラ不備に悩みながら他方インドの金融センターでありまた映画産業の拠点である。つまり「インドの上海かニューヨーク」なのだ。
- ムンバイでは開発が続いている。インドの他の古い都市では開発用地を見つけることは極めて困難だが、ムンバイではまだ開発用地はある。
もう一度東京とムンバイの話を整理して考えてみよう。
- グローバル化と情報産業の発達で中国やインドが先進国の工場やバックオフィスあるいはコンピュータ・プログラム等の開発拠点となった。
- 先進国の製造業が工場を発展途上国に移した結果、先進国の地方では土地に対する需要の減少が続いている。
- 一方金融業やその他サービス業あるいは製造業の本部・マーケッティング部門は、世界中の大都市でオフィススペースを求めているので、開発が追いつかない程需給がタイトになっている。
つまり今世界は二極化しつつある。それは「先進国・発展途上国」という区分ではなく、「グローバル経済圏と国内経済圏」である。そして東京ミッドタウンの様に世界の経済圏に結びつくファンクションを担うところは繁栄を享受できるということなのだろう。
グローバル化が止められない流れであるとするならば、その下流に起きる一国内の大都市圏・地方との経済成長の格差という問題もまた不可避なのである。