今日は少し値を戻しているが、邦銀の株価が低迷している。どうしてこんなに不調なのか?いつ好転するのだろうか?と考える時がある。たとえば三菱UFJの配当利回り0.75%、PER16.5%というのは一般的な投資対象としてそれ程悪い水準ではない。しかし信用倍率の61倍という数字は異常だ。信用倍率とは信用買い残高÷信用売り残高で、潜在している売り注文÷潜在している買い注文ということができる。つまり売りが買いの60倍もあるということでは株価の大きな上昇は見込めない。
しかしこれは銀行株の値が重いということを言い替えただけの話で、値が重い本当の理由は何か?ということが問題だ。私自身は株のプロではない~つまりアナリストやファンドマネージャーとして飯を食っている訳ではない~から、以下は個人的な推測の域を出ないが、ネガティブな要素は以下のとおりだ。
- 円金利のフラット化が顕著になっている。銀行は短期で資金調達して長期に運用する(債券などに投資する)ことで収益を上げるが、長短金利差が縮小すると利鞘が減少する。既に米国では長短金利が逆転しているが、銀行収益の悪化要因になっている。
- 国内景気・企業収益に対する見方がやや弱気になりつつある。米国景気の先行き懸念から日本の景気にも懸念を云々する筋が出てきた。これが顕著なのは米国勢等の投資家だ。彼等は日本株への投資姿勢を弱めている。景気が悪化すると弱い資金需要が益々弱くなり、銀行間の競争激化から一層貸出採算が悪化する。また好況で減少していた企業倒産や個人破産が増える可能性がでる。
- 国際業務を将来の収益の柱とするメガバンクのビジネスモデルに疑問。メガバンクが国際業務で収益を拡大することを標榜しているが、その矢先米国でサブプライム住宅ローンの問題が発生した。サブプライム市場ではHSBC等外銀~米国から見て~がかなりの痛手を被った。つまり儲かりそうに見える市場もリスクだらけでよそ者が入って行っても上手く行かないということ。長い時間のブランクがある邦銀が国際業務で欧米のメガバンクを相手に簡単に勝てるとは思えず・・・ということだ。
- サブプライム住宅ローン問題が投げる影。米国でサブプライム住宅ローン市場が破綻したことで直ちに邦銀に大きな影響が出る訳ではない。しかしこのことは間接的にはかなり影響を持ってくる。まず米国の連銀等監督官庁はかなりの確率で「住宅ローンポリシー(融資方針)の強化」と「引当金の計算根拠」の一層の開示を求めてくる。また借り手保護の議論も強まる可能性が高い。もしこれらの動きがでるとタイムラグはあるにしろ日本の当局が追随する可能性は高い。これらのことは銀行の負担につながる。
- しのびよるバブルの影。今世界のあちらこちらに顕著なバブルがあるか?というとそれ程大きなバブルがあるとも思わないが、同時にバブルが全くないとも思わない。洗練された株式投資家はPERに敏感で無茶な買い上がりはしていない。とはいうものの一部例えばベトナムの株式市場は明らかにバブルだろう。上海の株式市場がバブルかどうかは分からない。しかし非常に不透明な企業情報に基づいて株式が買い上がられる状況はバブルの条件の一つではある。日本のリートがバブル状態であるかどうか分からない。しかし当局がかなり関心を払っていることは事実である。アメリカのヘッジファンドやプライベートエクイティがバブルかどうか分からない。しかしその創業者達が株式公開に踏み切るということは売り抜くタイミングが来たというホイッスルかもしれない。もしこれらのことがバブルだったとしてそれが崩壊すると金融機関にはかなりの痛手が生じるはずだ。
以上は極めて常識的な意見だ。その他銀行の収益源になっている投信の販売がネット証券等との一層の激しい競争にさらされるなど色々なことがある。だがそれらの話は専門家に任せよう。
そして最後に別の観点からちょっと私論を述べたい。投資の観点から見るとこれだけグローバル化が進むと国内株式投資と外国株式投資を分ける意味が極めて薄くなっていると私は考えている。それよりはむしろ産業毎やそのサブセクター毎の投資配分の方が重要ではないだろうか?
例えば自動車を今後の有望産業と考えた場合、日本の自動車メーカーの株を買うかアメリカのメーカーの株を買うかといった検討ではなく、世界中の自動車メーカーを一列に並べて検討した方が良い。
これを金融株に当てはめた場合、世界の金融市場のどこでリスクを取る=株式投資をするのが、よりリスクとリターンが見合っているのか?という判断をするということであろう。
その答はそれぞれの投資主体の持つ投資リターン目標、知識、リスク耐性、投資金額、期間などにより異なる。もし収益がぶれるリスクが高くまた回収に多少時間を要するとも高いリターンを狙うというのであれば、中国やインドなどの発展途上国の銀行を狙うのが良いだろうし、配当利回りや流動性を重視するなら米銀が良いかもしれない。
また金融のリスクを銀行で取るのかそれ以外の金融機関、極論をいうと上場するヘッジファンドやプライベートエクイティで取るのかなどというのも考えどころだろう。
この様に考えると今の日本の銀行の株価水準は中途半端で投資魅力が乏しいとことなのだろう。なおこれは全くの私見である。