金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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プライベートエクイティの上場、最大のパロディ

2007年03月19日 | 英語

ウオール・ストリート・ジャーナル(3月17日)によると、米国最大手のプライベートエクイティ・ブラックストーンが上場を考えているということだ。詳細は後で述べるとして、多くの公開企業をプライベート化してきたプライベートエクイティが公開化するというのは最近の金融界における最大級のパロディではないだろうか?

ブラックストーンのCEOシュワルツマン氏は長年買収したい会社に向かって、公開市場によるオーナーシップの失敗を説教してきた。英語として面白いのは「説教」というところで原文はEvangelize、これは福音を説く、改宗させるという意味。欧米人がアジア人特に言いなりになり易い日本人に市場経済主義のメリットを説く時などにこのEvangelizeという言葉を使うと実感がでるだろう。

話が横に逸れたがとにかくシュワルツマン氏は株式公開による企業所有システムを「壊れたシステム」と呼び、2002年の施行されたサーベンス・オックスレー法を企業経営者から企業経営の熱意を奪う法律と批判し、四半期毎の利益報告を「暴政」あるいは過酷な行為と言っている。

そのシュワルツマン氏が自らの企業ブラックストーンを公開化するというのは、皮肉というかパロディという他ない。ではどうして彼は公開化するのか?その答をウオール・ストリート・ジャーナルは幾つか用意している。

  • 株式公開化によって半永久的に安定した資金を手に入れる。
  • 買収対象企業に対して自社(ブラックストーン)の株式割当による買収を行なうことができる。

勿論これらも大きな理由であることは間違いない。しかしウオール・ストリート・ジャーナルが「ブラックストーンのパートナー達は金融市場が天井を付けたと考えているかもしれない」と推測は中々興味深い。

というのは今年1月に米国で初めてフォトレス・グループというヘッジファンドが上場した。この時の上場価格は18.50ドルで当日35ドルまで上昇した。現在は25.83ドルで取引されているということなので、高値で買った人は3割方損をしたことになる。

当局の規制強化の動きも気になるところだ。ウオール・ストリート・ジャーナルによると年金基金によるヘッジファンドへの投資上限を設けることを議員達が討議しているということだ。また何人かの上院議員のスタッフ達がヘッジファンドとプライベートエクイティに対する課税強化を検討している。

以上のような状況からシュワルツマン氏以下のパートナー達が「そろそろ天井だから株式公開をして金を手に入れるか?」と判断しても全くおかしくはない。シュワルツマン氏は個人資産100億ドル(円ではない!)と言われているが、今回上場すると資産が倍になると言われている。

さてこの話をもっと大きく世界レベルで考えてみると、2000年代に急拡大してきたヘッジファンド、プライベート・エクイティ、リート、BRICs等の新興市場等が大きな曲がり角に来ている予兆なのかもしれない。その一つの前触れは2月の世界同時株安だった。アメリカのサブプライム住宅ローン市場の行方も予断を許さない。ベトナムではエコノミスト誌が警告を発する様に300年前の「南海泡沫事件」(有名なバブル事件)ならぬ南シナ海泡沫市場的現象が起きている。

ここでふとマルクスの「歴史は繰り返す。一度は悲劇として二度目は喜劇として」という言葉のパロディ版を思いついた。「バブルの歴史は繰り返す。情報の乏しい個人には悲劇として、情報の豊富な仕掛け人には金儲けのチャンスとして」

ブラックストーンの最近時のリターンは100%を越えるという凄いものなので、株式公開をすると相当な人気を呼ぶだろう。ただし高値で買う人がそれに見合う十分なリターンを得られるかどうかは疑問だ。

コメント
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