ウオール・ストリート・ジャーナルによるとバンカメに買収されたUSトラストのトップが内部対立から退社することになった。彼の名前はPeter K. Scaturro氏。47歳。Scaturroの正しい発音が分からないから「ピーター」と呼ぶことにする。
- ピーターの辞職を早めた論争はコンピュータシステムからUSトラストの超富裕層顧客にまでATMの利用料金を課すのかという広い範囲にわたった。これらの問題で買収が頓挫するとは思われないが、バンカメの様な金融スーパーマーケットにとって、他の金融機関の異なったサービスを受けてきた顧客にマスマーケット哲学を受け入れさせることの困難さを強調することになった。
USトラストは1853年に設立されたプライベートバンキングの名門で、口座を開くには最低2百万ドルの資金が必要だ。因みに米国の大手プライベートバンクの預かり資産は以下のとおりだ。
JPモルガン・プライベート・バンク 2,580億ドル、プライベート・バンク・オブ・アメリカ 1,720億ドル、ノーザントラスト 1,350億ドル、シティ・プライベート・バンク 1,000億ドル、USトラスト 930億ドル
ウオール・ストリート・ジャーナルによると、ピーターはバンカメのグローバル富裕層取引部門のトップ・モイニハン氏ではなく、バンカメ全体のトップ・ルイス社長に直属することを希望していたがかなわなかった。
- バンカメの役員は米国中間層の文化に染まっていて、USトラストのニューヨークの豪華な本社に不信の念を抱いていた。ピーターは運転手付の車を使っていたが、ルイス社長は通常自分で車を運転して通勤していた。無論バンカメの役員もである。
- ピーターとモイニハン氏の最大級の衝突の一つは、富裕層に対する商品投入に関するものだった。ピーターは株式・債券ポートフォリオからヘッジファンド・プライベートエクイティにいたるまで独自の商品を投入することを主張したが、モイニハン氏はより広範な顧客層に向けて投入する商品を使うことを主張した。
この記事はもう少し細部にわたって、USトラストの伝統がバンカメで活かされない可能性に言及しているが、紹介はこの辺りでやめにしてコメントを述べよう。
バンカメによるUSトラストの吸収合併の後、USトラストのピーターは辞める事になったが、これには彼固有の問題と業務固有の問題双方があるだろう。
ピーター固有の問題というのは彼が非常に仕事熱心で自分のビジネススタイルに確信を持った男だったということだ。彼のプライベートバンキングにおける哲学は「特別なサービス」を提供することで、著名な作家や政治家を含んだ個人的なディナーやプライベートなコンサートやカクテルパーティをマーケッティングに使うというものだった。しかしこれはバンカメには費用対効果の面で非効率と判断された。信念の強過ぎる男が文化の融合に馴染まないのは自明のことだろう。
業務固有の問題ということについていうと、プライベートバンクという業務には様々なアプローチがあるだけに融合が難しいということだ。もしこれがコモディティの販売に関する様なものであれば、「効率性の追求」という共通の物差しで議論することができて、合併企業間の融合が図り易かっただろう。しかし人しかも超富裕層という一番扱い難い人達を相手にする商売だけに、サービスの提供者の数だけサービス方法があり、融合は難しかったということだろう。
この話を敷衍すると、これから日本でも更に進むことが予想される企業の買収・合併においても、コモディティを扱う業務の合併に伴う企業文化の融合は比較的簡単だが、専門性が高い業務における企業文化の融合は困難だということだ。場合によると合併により固有の企業文化が消滅すると顧客離れを起こすこともあるということだ。
バンカメとUSトラストの合併は継続的に見ておきたいケースだ。