今週のエコノミスト誌は「日本に間もなく消費ブームが来る」という予測は発表した。私が見る限りエコノミスト誌の日本経済に対する過去の予測は相当当たっているので、この予想にもある程度信頼を置いているが気になるところもある。それは後程コメントするとしてまずは記事のポイントを見ておこう。
エコノミスト誌が日本に消費ブームが来ると予想する理由は次のとおりだ。
- 失業率は4%に低下している。しかし今年1,2月に関しては労働者一人当たりの現金給与は一年前に比べて1.1%低下している。グローバリゼーションは技術革新と相まって、賃金に下方圧力を与えている。
- しかし他の説明の方が説得力がある。雇用は給料の高い製造業から給料の低いサービス業に移っている。また向こう3,4年間は給料の高い団塊の世代が退職し、給料の低い若年層が雇用される。
とここまではエコノミスト誌は給料が上がらない理由を列挙するが、次に給料が上がりその結果消費が増える理由を列挙する。
- 失業率が低下し続けると賃金にかかる上昇圧力が加速するポイントに到達する。ゴールドマンザックスはこの臨界点となる失業率を2.5%-3.5%と見ている。そして今年年末までに失業率はこのレベルまで低下すると予測している。
- 今新規に採用されている人の多くは7,8年前頃就職を諦めた人々である。この「戻ってきた落胆組」層はまだ購買力を発揮していないが近い将来他の勤労者と同様の消費行動を取ると思われる。
- さらに2005年から企業は正社員の雇用を増やし始めている。正社員には賞与が支払われる。典型的には賞与は年収の2割を占めるので、その分所得が向上するということだ。
- また団塊の世代の退職で退職金の総額は昨年実績の10兆円から今年予想の13.5兆円に拡大する。ゴールドマンザックスはこれにより消費が0.3%増えると推測している。カメラ店、釣用のボートの販売店、レストランが好調な業況を報じている。
なお記事は2月の消費者物価の下落はエネルギー価格の下落によるもので、再びデフレに陥る懸念は少ないと結論付けている。
私もエコノミスト誌の見通しに概ね賛成なのだが、幾つかの点で考慮しておく点があるので、コメントしよう。
一つは失業率の問題だ。失業率を考える時に「消費者に提供するサービスレベル」と「生産性」の問題を検討する必要がある。例えば人件費の安いアジアの国のカフェテリアで食事をすると、後片付けをボーイさんがしてくれるが、相対的に人件費の高い日本や米国ではセルフサービスが一般的だ。雇用情勢がタイトになると、日本ではもっとセルフサービスが増えるかもしれない。例えば日本のDIYや家電の店などで大型の買い物をすると無料宅配が普通だろうが、米国ではかなり高い配送料を取られた(個人的な経験だが)。そこで米国では大抵消費者がピックアップトラックなどの車で大型消費財を持って帰るのである。話が長くなったが日本ではまだまだサービスレベルを変えることが可能ということだ。
次のホワイトカラーの生産性。これは毎日身の回りで見ているが米国などに比べて恐ろしく低い。どう低いかということを事細かに書いているときりがないが、要はやってもやらなくても殆ど変わらないようなことに時間を費やしている社員が多過ぎるということだ。
比喩的な話だが、昔私がヒマラヤに遠征した頃は荷物運びの現地人ポーターを入れて数十名のマンパワーを使ったが、装備を軽くして今日風のヨーロッパアルプス的なアタック方式を取ると数名で済むかもしれない。人が増えるとその人に食べさせる食料、泊まるテント等の装備が増えてまたそれを運ぶ人が増えるという悪循環が発生する。
次に退職金だが、ゴールドマンザックスが予想するような退職金がキャッシュで支払われるかどうか疑問である。その理由は多くの会社で過去10年程度の不況期にリストラの一環として子会社転籍を実施しており、退職金のかなりの部分が既に支払われてる可能性がある。また退職金の年金化が進んだ結果一時金で支払われる部分が年金に振り変わっていると考えれる。ゴールドマンのレポートは読んでいないがその辺りがどこまで考慮されているか気になるところだ。
以上のようなことを留意しながら、今後の賃金動向の推移をウオッチする必要がある。これが金利と株の動向に一番影響を与えてくるだおるから。