金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

孫子の国宝続き

2007年04月13日 | 

前のブログで「勝っても名誉を求めず負けても責任を回避せず、ただ民の安寧を図り、主君の利害と一致する。この様な将は国に宝だ」という孫子の文章を引用した。この様な将軍は多くない。むしろ愚劣なインパール作戦で無意味に多くの将兵を殺した~しかも大半は飢えと病気で~牟田口廉也中将の様な無責任で仁のカケラもない将軍の方がはるかに多い。

たまたま読んでいた「わたしの唐詩選」(中野孝次)の中に「劉長卿の李中丞の漢陽の別業に帰るを送る」という詩が出ていたことを思い出した。

流落す 征南の将 かって駆る十万の師 罷(や)めて帰って旧業なく

老い去って明時を恋う 

意味は「かって10万の大軍を指揮した征南将軍李中丞が官職を失い、(いくさの間に私財を投じて兵士を助けたため)落ちぶれて漢陽の別荘に帰っていく。年老いたあなたは昔の栄光を恋しく思っている

独立 三辺静かに 軽生 一剣知る 茫々たり 江漢のほとり 日暮 いずくにか之(ゆ)かんと欲す

李将軍がいたので国の三つの辺境は静まっていた。身を捨てて国に尽くしたことは一振りの剣だけが知っている。茫々たる漢陽江に船を浮かべて将軍はどこに行こうとしているのか

まさにこの様な人こそ孫子が言う「国の宝」の将軍である。

ところでインパール作戦で兄を亡くした中野孝次氏は許しがたい思いで次の様に述べている。

陸海軍で幅をきかし、時を得顔にふるまっていた将軍連は、大抵がただ空威張りするだけの、戦さも知らず兵を思いやる心もないバカ共だったのが、日本の不幸であった。そして彼らの無責任な心情はそのまま戦後にも引き継がれ、今は官庁や、銀行や、商社うあ、警察にまで、戦争中の将軍と同質の連中がのさばっている有様なのは、情けないともなんとも言いようがない。

私はインパール作戦や官庁、警察のことは知らない。ただ私が身を置いたことがある銀行に関して言えば、中野氏程こき下ろす積りはないが、今日的な金融理論や金融技術に疎いばかりか学ぼうともしない連中が妙に偉くなるという傾向はあった。

これは諜報活動やレーダーやロケット砲といった新鋭兵器の開発を等閑視して、陸軍参謀本部の中で空理空論を振り回し、席次争いに明け暮れていた旧日本陸軍の縮小版と言えないこともないという気はする。以上は自戒をこめた言葉でもある。

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大手銀行合併の難しさ

2007年04月13日 | 金融

ファイナンシャルタイムズに「シティのリストラはバークレイズや他の銀行にとって他山の石になる」という記事が出ていた。ポイントは大銀行の合併には特別な困難が伴うので、ABMアムロと合併を交渉しているバークレイズは良く考えなさいということだ。

  • シティが今年17億ドルの経費削減を目指して1万7千人の人員削減を発表したことは屈辱を伴う。シティはトラベラーズとの合併を通じて、余分な中間管理職層と非効率なミドルオフィス・バックオフィスを積み重ね、それを削減するのに遅れていた。

「屈辱を伴う」は原文ではaccompanied by some humble pieで、humble pieは「鹿などの内臓で出来たパイ」だが、転じて屈辱の意味である。余談ながらEat humble pieで「屈辱に甘んじる」ということになる。

  • 幾つかの点で銀行の合併は他の一般企業の合併と異なるところはない。二つの企業文化を融合し、重複する管理者層を取り除くことは常に困難であり、効率的な合併を推進した企業は、GEなどを例外として稀である。
  • しかし大銀行の合併は特別な困難さを伴う。古い技術は単純に新しいコンピュータシステムで代替することが出来ない。それは継続的に保管しなければならない顧客データやローン情報がしばしば紙ベースで保存されているからだ。また信用リスクに関する本部での厳格な管理と支店ベースの貸付管理が並行して存在しなければならない。クレジットカードから保険に至る多くの異なった商品がきちんと管理される必要があるからだ。
  • シティの教訓から学ぶことは2つある。一つは「最初の合併効果を得た後持続的に合併効果を得ることが如何に難しいということを過小評価するな」ということだ。次は「合併後何年経っても合併を遂行するために働き続ける」ということだ。この二つの原則に従うことに失敗したシティは名声回復に苦労している。

短い記事だが、示唆するところは的確だ。合併を合併時点における一時的な作業と捉えずに、持続する作業と捉えることが大切だということだ。

それにしても前世紀の終わりから今世紀にかけて日本でも大銀行の合併が相次いだが、合併効果は出ているだろうか?シティの轍を踏むところはないだろうか?

今日の新聞を見ると「みずほグループ」が新卒者の中で一番人気が高いという記事が出ていた。みずほの一株主としては嬉しいことだが、肝心の株価はトンと冴えない。就職人気だけでなく、投資家の人気も得るようにがんばって欲しいものである。

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