金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「銀行の証券会社化」の危うさ

2007年04月05日 | 金融

今日(4月5日)の日経新聞朝刊大機小機は「銀行の証券会社化」というタイトルで「回転売買重視の営業姿勢に危険な兆候が出ている」と警告を発している。これは至極もっともな警告だが、私は少し違う観点からも銀行の手数料重視の姿勢に危険な兆候を見ている。

一つは「個人顧客が洗練Sophisticateされてくると、販売手数料や信託報酬を出来るだけ削減する」動きにでるだろうということだ。つまりノーロードの投信を購入したり、手数料の安いネット取引を利用したり、信託報酬が低い上場型投信を購入するという具合にだ。銀行はこのような近未来を想定して「付加価値のあるサービス」を提供しないと個人顧客から手数料を上げられなくなる可能性がある。

しかし顧客が洗練され金融知識が豊富になった場合、なお銀行に高い手数料を払って金融商品を買うだろうか?というパラドックスを感じない訳ではない。こうなると銀行の営業担当者は洗練された顧客を満足させるだけの「知識」や「もてなし」を身に付けないとならないのだが、それは可能だろうか?

もう一つは忠実義務の問題だ。つまり営業員が「顧客の利益を第一に考えるか」「会社の利益を第一に考えるか」ということだ。具体的にはパッシブ商品を求めに来た顧客に、販売収益が高いインデックスファンドを勧めるか、販売収益は低いが顧客に有利な上場型投信を勧めるかという問題である。

ところで「大機小機」は「営業担当者のローテーションを長期間に変更するべきだろう」という提案をしている。これは正しい提案なのだが、ネックは金融庁のガイドラインである。金融庁は銀行に不正防止の観点から5年程度を目処にあらゆる分野でローテーションを要求している。このようなことを監督官庁が求めている先進国は日本だけだろうと思う。もっともこれは担当者と顧客の間で多額の現金の受渡が行なわれるという日本固有の金融慣行から見て止むを得ない面があったのかもしれない。

しかし今金融業務は非常に専門性の高い分野に拡大しているので、ローテーションに関するガイドラインも見直すべき時期であろう。さもないと洗練された顧客を満足させる資産営業とまりプライベート・バンキングのような業務は不可能であろう。

正しいことについては君子は豹変して良いのである。

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バックミラーを見て投信を買うと危険

2007年04月05日 | 株式

最近私のブログにトラックバックされる方が増えている。歓迎したいところなのだが、少し危なげなサイトやテーマと全く関係がないブログへリンクするものもあるので、暫くトラックバックをお断りすることにした。

さて本題に入ると今日(3日)のウオール・ストリート・ジャーナルに「(投信の)エリートクラブは(投資家の)不興をこうむる」というタイトルでITバブルの時年率3桁の成長率を示した投信の末路を描き、示唆するところを説明している。ポイントのポイントをいうと投信では過去の運用成績だけを信じて購入すると間違いを犯しやすいということだ。

因みに不興をこうむるの原文はFall from graceでこれには「神の恩寵を失う」という意味もある。他者を上回る運用成績が神の恩寵であるとすれば、こちらの訳の方が良いかもしれない。

記事のポイントは次のとおりだ。

  • 2000年3月には過去1年間で100%以上のリターンを上げた投信が275あり、その内24ファンドは200%以上のリターンを上げていた。この2000年3月というのは10年にわたる強気相場が終わり、次の3年の困難な相場が始まる転換点だった。
  • 3桁のリターンを上げた投信のエリートグループについて、我々はモーニングスター社にその行末を調べて貰った。その結果、学ぶべきことは過去の運用成績を追い駆けることの危険さである。

ここで感心することは、ウオール・ストリート・ジャーナルの実証的な態度だ。新聞の存在意義は一般市民では中々調査できないようなことを調査して、真実を明らかにすることである。この姿勢は日本のマスコミに多い憶測記事と対極をなす。

さて調査結果はというと

  • それらのエリートグループの内、97ファンドはもはや存在しなかった。97の内44ファンドは他のファンドに吸収されてトラックレコードは隠されてしまった。22は解散されたが投資家はほとんど資金は返還されなかった。残る31ファンドはデータベースから抜け落ちてしまい、モーニングスター社はその運命を見定めることができなかった。

運用成績を見る場合、現在存在しているファンドの成績だけを見て全体像を推し量ると大きな誤りを犯す可能性がある。何故なら運用不振で撤退したファンドまで計算に入れて全体を見ないと運用成績が過大に見えるからだ。

  • 生き残っている179ファンド(消滅した97との合計が全体の275と1違うが・・・)の内僅かに37ファンドだけが、過去7年間で2000年10月からの市場平均リターン年1.7%を上回るリターンを上げた。
  • 約3分の1のファンドは、もしナスダックが最高値を付けた日(2000年3月?)に購入されていると投資家は毎年二桁の損失を出していることになる。
  • モーニングスター社の投信アナリストのベンツ氏は「ダウンサイドリスクをほとんど考えないで、全速力で投資するようなファンドが一番悪かった」と述べる。つまり「鼻血が出るほど高いPER(株価収益率)の時に株式取引に金を投げ込み、市場の狭い分野での賭けに集中するようなやり方が悪いのである。

この当たりになると俗語が多くなり、通常の和英や英々辞典では対応できなくなる。例えばpedal to the metalこれは「全速力」という意味だが、http://www.urbandictionary.com/というslangの英々辞典サイトで調べた。

ウオール・ストリート・ジャーナルの記事はこの後も続き、幾つかの失敗したファンドのストリーや少数だが成功したファンドのストリーを紹介している。成功したファンドの一例は、新興国市場に投資していた投信である。その他の例としては空売りを取り入れたファンドもあった。

これは私見だが、新興国投資で好成績を続けたというのは「神の恩寵」に近いかもしれない。一方空売りについてはかなり洗練された手法だと思うが。

この記事を読んで思うことだが、運用のポイントは「中庸」ということなのだろう。つまり一時に高いリターンが得られる様な運用は所詮ローラーコースターに乗っている様なもので落ちる時も落ち方が激しい。我々一般人に必要なものは1年間で資産が倍増する様なリスクの高い運用ではなく、長期金利+αを長期的に実現していく運用であろう。

投資家教育ということが声高に言われだしたが、基本は「中庸」とか「バランス」あるいは「謙虚」といった徳性が中心になる話であろう。つまりは人間としての知性と教養を高めなければFinancial Literacyは身に付かないということである。

コメント (1)
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