金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

孫子と愛民の系譜

2007年04月11日 | うんちく・小ネタ

「風林火山」のことをブログに書くため「孫子」を読み返していると、色々考えが広がってきた。それは「孫子の兵法」の根本にある思想、つまり何のために戦争をするのか?ということである。

火攻編で孫子は「それ戦勝攻取して、その功を修めざるものは凶、命(な)づけて費留(人命・資材の無駄遣い)と曰う」と述べる。意訳すると「戦争には勝って何かを得るという目的がある。幾ら戦いに勝っても肝心の政治的な目的を達成しないと悪である。これを貴重な人命と資材の浪費だ」ということだ。また謀攻編では「およそ兵を用うるの法、国を全うするを上となし国を破るは之に次ぐ」と述べる。これは敵国をそっくり無傷で頂くのが上策で、力ずくで打ち破るのは次善の策ということだ。

この様に考えていくと孫子は「どの様に戦闘を行なうか」を論じているのではなく「どの様にして戦闘活動を最小化するか」を論じていることが分かる。

孫子のこのような考え方は国や軍を運営するものとしてのプラグマティックな発想から出ているのだろうか? 無論その部分は大きい。しかし敢えて言えば孫子の中には人に対する愛(いと)おしさがあると私は考えている。

用間編で「爵禄百金を愛(おし)みて敵の情を知らざるものは、不仁の至りなり」という。つまり金を惜しんで諜報活動を行なわず、自軍と敵軍の優劣を判断しないで戦争を行なう様な将軍は兵士や国民に多大な負担を与えるので「不仁」の極みだということだ。仁はヒューマニズム、他人に対する愛であろう。

ところが孫子を読んでいくと民を愛することに関して悩ましい文章に出会う。それは九変編の「民を愛するは煩わすべきなり」という一節だ。これは将の五危の一つ、つまり将たるものの5つの危険の一つだというのだ。意味は人民を愛することが過ぎて情の溺れると危険だということだ。これは「民を愛することに拘る敵将にはそこを逆手にとって攻めると良い」と解釈するべきで孫子が愛民ということを軽んじたとは解釈したくないがどうだろうか?

愛民といえば、「風林火山」の旗を掲げた武田信玄の好敵手・上杉謙信の後を継いだ上杉景勝の家臣直江山城守兼続の冑の話がある。兼続の冑の前立は「愛」の字であった。戦国時代に「愛」の字を大胆に使った例は珍しい。もっともこの愛が愛民を意味するのか愛染明王を意味するのか愛宕権現を意味するのか解釈は分かれるという。

兼続はこの時代には珍しく一夫一婦制を守り、又民百姓を労わったと聞く。冑の前立は「愛民」の愛だったと解釈したいところだが専門家の意見はどうだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

農産物インフレを何でヘッジするか?

2007年04月11日 | 株式

今日昼飯時に「家庭菜園」の話がでた。Aさんが10坪程の畑を借りて、ジャガイモ作りを始めたということだ。ジャガイモや玉葱なのでは日持ちがするので、沢山収穫しても良いそうだ。その時はさして羨ましいとも思わなかったが、食後ウオール・ストリート・ジャーナルを読んでいると、世界的に忍び寄る食料インフレの話が出ていた。その中で「日本では物価が漸く上がり始めたところなので、兆候は不確かなものかもしれないけれど、日本でさえ食料価格が上昇しているかもしれない」という記述があった。今から農業に取り組むというのも賢明な判断かもしれない。まず記事のポイントを見てみよう。

  • 部分的にはエタノール燃料への需要に牽引され、世界的に農産物の価格が上昇している。これは新たなインフレの原因になりつつある。中国とインドが牽引する世界の経済成長が食料の消費を助長しインフレ圧力を煽っている。
  • 中国では食品価格は年率6%で上昇しているがこれは昨年の3倍の早さだ。

添付のグラフによると、細かい目盛りはないもののトルコで14%程度、インドで11%程度の上昇率である。

  • 米国では2月に前年比3.1%上昇した。エコノミスト達は米国の食品価格は今年は一般物価の上昇率よりも高いと予想している。食肉、家禽や卵の値段は既に上昇している。もしこの傾向が続くなら、米国の消費者はスーパーマーケットでミルクから炭酸飲料水にいたるまで総てのものの値段の上昇に出会う可能性が高い。米国の家禽協会のスポークスマンは議会の小委員会で「エタノール危機で鶏肉の値段が上がっている」と証言した。
  • 食料価格がやがて安定するという楽観論者は、ブラジルの様に広大な土地を持つ国が農地開拓を行なうことや農業技術の進歩により、農産物の産出量が増え価格は安定に向かうと考えている。
  • しかし多くの経済学者は現在の食料インフレの狂騒は持続するか、数年後再発すると信じている。多くの国は土地と水の不足に直面しており簡単に増産することができない。これは過去の食料インフレの時にはなかったことである。
  • UBSの調査によると、中国の過去5年間の食料の平均価格はその前の5年に比べより早いペースで上昇している。これはより多くの農地が工場やコンドミニアムに転換されたからである。
  • 世界の穀物在庫はここ数年間の世界的な経済成長の後30年間で最低の水準になっている。もしより多くの収穫物がエタノール燃料に転換されると食料需給は一層タイトになるだろう。ある予測によると2006年に米国では穀物の16%が燃料に利用されていたが、2008年までには30%が利用される可能性がある。
  • 1970年代以降食料インフレは相対的に穏やかな状態が続き、価格の高騰も一時的なものだったが、今のような狂騒状態が持続すると中央銀行は金利を引き上げざるを得なくなるかもしれない。実際インドではこの1年間食料インフレに戦うことも利上げの目的の一部だった。
  • 今日インフレリスクは発展途上国経済において一番大きいだろう。フィリピンでは穂九両が消費者物価指数の構成要素の5割を占め、タイでは35%を占める。しかし米国では食料の比率は15%に過ぎない。

食料インフレリスクの根は深い様だ。インドではトウモロコシの生産量は2001年以来年率4%で伸びているが、需要は5.5%で伸びている。

中国のトウモロコシの在庫は現在30百万メトリックトンだが、これは2,3ヶ月分の在庫に過ぎない。中国は今はトウモロコシの純輸出国であるが、数年後には輸入国に転じるとアナリスト達は信じている。経済学者の中には中国は食料問題を解決するためにより積極的な手段をとるべきだというが、その手段の中には大規模で効率的な農業法人の設立を認めることも含まれる。しかしこれは多くの農民の職を奪うことになるので、極めて困難な問題である。

以上が記事のポイントだ。大雑把にいうと食料の供給能力の増加を上回る経済成長のツケが回ってきつつあるということだ。これは中国とインドの経済成長にとって大きなリスクであり、株式投資上のリスクでもある。

ではこのリスクをヘッジする方法はあるだろうか? 考えられることはトウモロコシ等コモディティに投資をすることだ。実際アメリカの年金基金等はコモディティへの投資を増やしている。ただしダイレクトな投資ではなく、ヘッジファンド経由の投資が多いのではないだろうか?

一般的な個人投資のレベルで考えると、この方法は運用資金量の点から難しいかもしれない(可能性について未だ詳しく研究していないが)。もっと簡単な方法は「農業資源等に投資するファンド」へ投資することだ。私はドイチェ・アセット・マネジメントが運用する「ニュー・リソース・ファンド」という投資信託を購入してみることにした。

これは【水・農業・代替エネルギー】という3つのテーマを同時にカバーするファンドということだ。より具体的にどの様なところに運用しているのかというと例えば米国の農業関連会社アーチャーダニエルズ・アンド・ミッドランドの株を買っているという訳だ。まだ出来立てのファンドなのでパフォーマンスを云々する段階ではないが、インドや中国への投資をヘッジすると思えば資産分散効果はあるだろう。

さあ、ここから先は頭の体操の世界である。以下のことは「風が吹けば桶屋が儲かる」程度の話なのであまり真面目に受け止めないで欲しい。

  • 一つはトヨタなどのハイブリッドカーにもっと焦点があたるのではないだろうか?つまり食料不足や食料インフレが続くとエタノール燃料は「車にコーンを食べさせるのか?」という批判を受けることになり、ハイブリッドエンジンがフォーカスされるという訳だ。
  • 日本でも家庭菜園がもっと流行るかもしれない。DIYの店や小型耕運機を作るメーカーも良いかもしれない。
  • 国ではタイのような農産物が豊富な国が良いかもしれない。もっとも今、タイの株式を買うには制限があるし、投資妙味が特段大きいとも言い難いが。

以上取りとめもない話になったが、食料インフレの話は頭の隅に留めておいて良い話だろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする