犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛むとニュースになるという言葉がある。これはマスコミは珍しい話を追いかけるとことの喩えだ。ところが人が犬を噛む話ばっかり追いかけて、犬に噛まれて多くの人が傷つく様な大問題が起きているのにマスコミが等閑視していては問題だろう。
自殺の問題にはこの様な面がある。マスコミは児童のいじめによる自殺やインターネット自殺の問題を大きく取り上げているが、それらの自殺総数に占める割合は極めて少ない。
ファイナンシャルタイムズ(FT)によると~FTは警察庁のデータによるのだが~、昨年の自殺総数は32,155人で、インターネット自殺は約90人、いじめによる自殺は242名で自殺者の1%にも満たない。一方経済的・職業的理由による自殺は9千件に上っている。
なお警察庁生活安全局が今月発表している「自殺の概要資料」によると、32,155人の自殺者の内遺書があるのは10,466人である。その内最大の自殺理由は健康の4,341人、経済問題が3,010人で職業上の理由が709人となっている。FTは経済・職業上の理由による自殺を9千件と述べているがその根拠は不明だ。
ここで冒頭の人が犬を噛む話に戻る訳だが、子供のいじめ自殺は人が犬を噛む程の稀さで大人が病気や経済上の理由で自殺をするのは、犬が人を噛む程に多いということだ。もっとも最近野犬はほとんどいないので犬が人を噛むことも珍しくなっているが。
問題は日本の自殺率の高さである。グループエイト諸国の中で一番自殺率が高いのはロシアで10万人当たり39.4人の自殺率。日本はこれについて10万人当たり24.1人だ。この自殺率は英国やイタリアの3倍以上だ。
日本で自殺が多い理由をサムライの切腹に関連つけて、文化史的な説明を試みる学者もいる。しかし1960年代から90年代にかけて日本の自殺率は国際的に見て高かったけれど、今日の様に飛びぬけている訳ではなかった。自殺率が急騰したのは、解雇が大量に発生した1998年でここに大きな転換点がある。
政府は現在自殺率を2割減らす方針で活動を始めた。関心のある方は自殺予防総合センターhttp://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.htmlを訪問されたい。
しかし問題は簡単には解決しない様だ。それは過去10年間政治がこの問題を無視してきたからであるとFTは言う。例えば抑圧された人々には精神科医のカウンセリングが必要だが、精神科医の数は不足している。過重債務による自殺を防止するためには個人破産を簡単にする立法措置が必要かもしれない。では債権者をどう保護するか?という問題がでるが、私は個人の借入状況についてあらゆる金融機関が情報を共有するしか多重債務の問題を解決する方法はないと考えている。話が横道にそれるが、今年金記録問題で話題になっている社会保障番号の導入を加速して、信用情報管理の共通番号とするべきなのである。
市場資本主義という仕組みは勝者と敗者を明確にする。敗者は経済的に傷つくが、勝者もまた高いストレスを負うことあるだろう。従って市場資本主義は心のケアと職業面の復活戦の仕組みをビルトインする必要があるのだが、日本はその仕組みを作らないままその先端に飛び出したのである。これではブレーキ不備のまま高速道路に飛び出した様なものである。
以上ざっと見た様に自殺の問題は根深くそして大きい。マスコミは全体から見れば1%程度にも満たないいじめ自殺などにフォーカスし過ぎて、もっと大きな経済的理由による自殺問題を正面から取り上げてこなかったのではないだろうか?
犬が人を噛むということも大量かつ異常に発生するとやはり重大なことなのである。