中国で物価上昇が進行している。5月のインフレ率は3.4%に達した。これは3ヶ月連続の上昇で、中央銀行が「快適なレンジ」としている3%を上回っている。3.4%というインフレ率は1年の預金金利3.06%を上回っている。
中国政府は伝統的にインフレを警戒している。それはインフレが貯蓄に影響を与えるばかりか、固定収入で暮らしている人々の生活に悪影響を及ぼすからである。80年代後半にはインフレに怒りを覚えた学生達が政治騒動を引き起こした。
中国のインフレというともう10年以上も前のことだが、当時まだあった北京の事務所を訪問した時、事務所の車の運転手さんから秘密だけどと言って教えて貰ったことがあった。それは「政府は著しく値上がりしている商品があるとその商品を物価指数のバスケットからこっそり外している」ということだ。これが事実かどうか確かめる術はなかったが、もし卵の値段が異常に上がっているとすると卵を物価統計から外すといったことをしているという噂があったのは事実だ。
最近の中国はこの様な統計操作はしないのか、あるいは主要産品である豚肉の値段を物価統計から外すことは出来ない故かはしらないが、ファイナンシャルタイムズによると、今インフレを牽引しているのは豚肉である。中国の物価指数の3分の1は食品価格が構成するが、その食品価格が5月には8.3%上昇している。卵の値段も上がっているが最大の原因は豚肉にある。昨年は豚肉の値段が安く、飼料が高かったので農家が豚の生産を抑えたことが要因の一つだ。しかし最大の原因は病気のため数百万頭の豚が死んだことだ。
豚肉の値段が上昇したことで、農家は増産体制に入っているので豚肉の値段は安定に向かうと言われている。
しかし中国の物価は高止まりすると見ておいた方が良い。既に食料品の上昇により賃金が平均して15%程上昇している。今のところ賃金の上昇は生産性の向上と利益率の減少で吸収されているが、数四半期後には輸出品価格に転嫁されるのではないかといわれている。
世界の工場である中国がインフレを輸出し始めると世界経済に大きな影響を与える。では中国政府が物価抑制のために金利引き上げを行うかどうかというと専門家筋でも読み難いそうだ。ひょっとした中国政府のインフレ防止策の不透明感が先進諸国の長期金利上昇につながっているという見方もできるかもしれない。