参院選挙で破れた自民党にとって最初の大きな外交上の試練は、今年秋に期限が来る「テロ対策特別措置法」の延長問題だ。この法律は01年に起きた米国同時多発テロを契機に制定された法律で、この法律に基づき日本の自衛艦がインド洋で米海軍艦艇等に給油活動を行っている。民主党の小沢党首はこの法律の期限延長に反対しているので、延長が危ぶまれるところだ。この問題に焦点を当てているのは英米のマスコミで、日本では深い突っ込みはない。
私はこの法案が廃止され、インド洋への自衛艦の派遣が終わると日本とアメリカの間に溝が広がり始めると考えている。そしてこのことは国益を損なうのではないかと懸念している。気になるのは中国が着実に軍事力をつみ増していることだ。
たまたまエコノミスト誌がかなりのページを割いて中国の軍事力の解説を行っているので、これを踏まえて少し中国の軍備を勉強してみた。
エコノミスト誌は中国の空母のエピソードから始める。中国は過去ソ連から3隻、オーストラリアから1隻の空母を購入したが、ロシアからの2隻は海浜公園の飾り物になっていて、オーストラリアからの一隻はスクラップにされた。残る1隻ワリヤーグは大連港で整備中だ。ただしその最終目的は不明で、練習空母になるかあるは遊園地の浮かぶテーマパークになるかは分からない。
つまり中国には今戦争に使える空母はない。しかしこのことをもって中国の軍事力を軽視することはできない。人民解放軍の最大関心事は台湾に冠する米国の防衛力を抑えることだが、中国の軍事力は95,96年の台湾海峡危機の頃に比べて飛躍的に増強されている。
それは改良された中距離弾道ミサイルDF-21(東風21)が実装されているからだ。これが台湾のミサイル防衛を困難にしているし、このミサイルは台湾を越えて米空母を攻撃することも可能である。
また2000年頃から実戦配備されている移動式固形燃料大陸間弾道弾DF-31は全米を射程圏内におさめている。中国が保有する戦闘機は1,550機(因みに日本が保有する戦闘機は300機)ディーゼル式潜水艦は53艘だ。
この地域における米空軍の優勢は今中国のチャレンジを受けているのだ。
しかしエコノミスト誌は中国の軍事アナリストは米軍の強さは技術に関するものだけではないということを良く知っているという。米軍の強さは「訓練」「異なった部隊との連携」「情報の収集と分析」「経験と士気」などに関わるものである。中国はこれらの分野でも追いつこうと苦闘している。しかし中国は1979年にベトナムに侵攻して以来実戦経験がないので、これらの分野でキャッチアップすることが難しいのだ。
今回のエコノミスト誌は数ページに渡りこのような分析を述べている。この記事は近い将来、米中の緊張が高まることを直接示唆していない。記事は「アメリカ人は龍(中国)が強くなることを注意しながら友好的に見ることを望んでいる」と結んでいる。
エコノミスト誌を読んで思うことは、英米の一流経済誌は実に冷静にかつかなり専門レベルで軍事バランスの分析を読者に提供していることだ。こういう姿勢を見ると国防とは単に戦闘機を増やすことやミサイルを実装するだけではなく、インテリジェンス(情報・諜報活動)が大切であり、インテリジェンスの基礎はスパイ活動などではなく一般的な公開情報の中にあるということだ。
このように見てくると日本の政治家の国防に関する見識は誠に低くて非常に心配である。