日銀が中国人民銀行やインド中銀より独立性がないというと福井総裁ならずとも目をむいて怒る人がいるかもしれない。しかしこれは私が言っているのではなく、IMFが言っているのである。より正確にいうと国際的な過剰流動性の問題を論じたエコノミスト誌の最近の記事の中でIMFの研究がそう言っていたということだ。念のために原文を紹介しておこう。
Controversially, the study(IMFの研究)reckons that both central banks (中国人民銀行とインド中銀)are more independent than the Bank of Japan.
これはこれで面白い話なのだが、エコノミスト誌の記事の本題は昨今の過剰流動性の問題にあるので、日銀の独立性については別の機会で論じるとして記事のポイントを紹介しよう。
- 投資銀行や国際機関の多くのエコノミスト達は誤って世界の流動性の状況は富裕国の中央銀行によって設定されると推定している。しかし昨年世界の通貨供給の増加分の3/5は新興国からもたらされている。
- 中国のM3は過去1年間で20%伸びた。ロシアでは通貨供給量は51%という途方もない伸びを示し、インドでも24%の伸びである。
- 新興国の金利政策は臆病で、米国とユーロ地域が過去3年間引き締めに動いたにも関わらず殆ど同調していない。
- 10年位前であれば新興国の通貨の急速な伸びは先進国の中央銀行にとって殆ど懸念材料とはならなかった。ブラジルで通貨供給量が爆発的に増えても、そこでハイパーインフレを引き起こすだけだったからである。しかし今日では新興国経済は世界の経済とクロスボーダー金融取引においてはるかに大きな役割を演じている。例えば中央銀行が巨額の米国国債を購入すると国債の利回りが低下しアメリカ国内での借入活動を刺激するという具合である。
ここでエコノミスト誌は発展途上国の中央銀行は、米国の連銀や欧州中央銀行のように政府からの独立性が高くないので問題だという。発展途上国の政府は経済成長と高め雇用機会を増やすため金利を低く抑えるように中央銀行に圧力をかける。また為替レートを低く抑えようとする政府の要請の結果、激しい介入を行いこれが通貨供給量を増大させるのである。この結果国際的に巨額のマネーサプライが発生する訳だ。
ここで冒頭の日銀批判につながるのだが、IMFやエコノミスト誌は低金利政策を持続してキャリートレードという形による巨額の流動性の創造に手を貸している日銀は中国やインドの中央銀行より独立性がないと痛罵している。もっともエコノミスト誌は「異論のあるところだが」Controversiallyと安全弁はつけているが。
世界の金融市場でバブルを退治するためには、これからは先進国の中央銀行の金利政策だけではなく、発展途上国の中央銀行や「国家資産基金」が協力して対応することが必要になる。日銀が国際的な連携プレーに参加できないと今度は異論なしに発展途上国の中央銀行よりも自律性がないと揶揄されそうだ。