金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日銀は人民銀行より独立性がない?

2007年08月13日 | 金融

日銀が中国人民銀行やインド中銀より独立性がないというと福井総裁ならずとも目をむいて怒る人がいるかもしれない。しかしこれは私が言っているのではなく、IMFが言っているのである。より正確にいうと国際的な過剰流動性の問題を論じたエコノミスト誌の最近の記事の中でIMFの研究がそう言っていたということだ。念のために原文を紹介しておこう。

Controversially, the study(IMFの研究)reckons that both central banks (中国人民銀行とインド中銀)are more independent than the Bank of Japan.

これはこれで面白い話なのだが、エコノミスト誌の記事の本題は昨今の過剰流動性の問題にあるので、日銀の独立性については別の機会で論じるとして記事のポイントを紹介しよう。

  • 投資銀行や国際機関の多くのエコノミスト達は誤って世界の流動性の状況は富裕国の中央銀行によって設定されると推定している。しかし昨年世界の通貨供給の増加分の3/5は新興国からもたらされている。
  • 中国のM3は過去1年間で20%伸びた。ロシアでは通貨供給量は51%という途方もない伸びを示し、インドでも24%の伸びである。
  • 新興国の金利政策は臆病で、米国とユーロ地域が過去3年間引き締めに動いたにも関わらず殆ど同調していない。
  • 10年位前であれば新興国の通貨の急速な伸びは先進国の中央銀行にとって殆ど懸念材料とはならなかった。ブラジルで通貨供給量が爆発的に増えても、そこでハイパーインフレを引き起こすだけだったからである。しかし今日では新興国経済は世界の経済とクロスボーダー金融取引においてはるかに大きな役割を演じている。例えば中央銀行が巨額の米国国債を購入すると国債の利回りが低下しアメリカ国内での借入活動を刺激するという具合である。

ここでエコノミスト誌は発展途上国の中央銀行は、米国の連銀や欧州中央銀行のように政府からの独立性が高くないので問題だという。発展途上国の政府は経済成長と高め雇用機会を増やすため金利を低く抑えるように中央銀行に圧力をかける。また為替レートを低く抑えようとする政府の要請の結果、激しい介入を行いこれが通貨供給量を増大させるのである。この結果国際的に巨額のマネーサプライが発生する訳だ。

ここで冒頭の日銀批判につながるのだが、IMFやエコノミスト誌は低金利政策を持続してキャリートレードという形による巨額の流動性の創造に手を貸している日銀は中国やインドの中央銀行より独立性がないと痛罵している。もっともエコノミスト誌は「異論のあるところだが」Controversiallyと安全弁はつけているが。

世界の金融市場でバブルを退治するためには、これからは先進国の中央銀行の金利政策だけではなく、発展途上国の中央銀行や「国家資産基金」が協力して対応することが必要になる。日銀が国際的な連携プレーに参加できないと今度は異論なしに発展途上国の中央銀行よりも自律性がないと揶揄されそうだ。

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貧困というアジアの亀裂

2007年08月13日 | 社会・経済

サブプライム問題が市場を揺るがせている。しかし本当に大変な目に遭っているのは、サブプライムローンを組み込んだファンドに投資している連中ではなく、サブプライムローンを借りて住宅を購入した低所得者層ではないだろうか?彼等は将来の返済負担急増というサブプライムローンのリスクを軽視して(あるいは知らずに)安易にローンを借りた様の思われる。彼等は債務不履行に陥った結果、折角購入した自宅を競売に付されてしまう。総ての人が住宅を持てることを目標と掲げる米国でも低所得者が自宅を持つことは中々難しい様だ。

サブプライムローン問題は所有における格差拡大という一つの結果を生み出すだろう。しかしより大きな較差問題はアジアにある。アジアの格差の問題は今すぐ金融市場の大きな波乱要因にはならないが、長期的には金融の波乱要因になるのみならず、社会全般の最大の不安定要因となる。このことは絶えず頭に入れておく必要がある。

国際労働機構(ILO)はこの辺りのことについて警告を発している。ファイナンシャルタイムズによるとポイントは以下のとおりだ。

  • アジア全体の労働力は2015年までに2億2千万人増加し20億人になる。これはイラン、ブータン、カンボジア、パキスタンといった国で25歳-54歳の中核となる労働層が増加しているからである。しかしシンガポール、韓国、中国の一部では「人口の崖」にさしかかっている。
  • アジアのいくつかの先進国では2015年までに人口の1/4以上が65歳以上の高齢者となる。
  • 2000年から2006年にかけてアジアはそれ以外の地域の2倍を越える年率6.3%という経済成長を遂げたが、この地域の多くの人は重大な貧困に面している。この地域の労働力の62%に相当する10億人の人々は「非公式な経済」の中で働いている。約9億人の人は一日2米ドル以下で暮らし、3億8百万人の人は一日1ドル以下で暮らしている。
  • 都市部の人口は2015年までに3億5千万人増加するが、地方の人口は1千5百万人しか増加しない。

ILOは原材料とエネルギーに対する需要は環境問題に対するプレッシャーを増加させると指摘し、今までどおりに事業を続けることは長期的には困難であるという。

例えば中国は経済発展を行うことで、国内の格差を長期的に改善しようと考えてきた。しかし環境問題や製品の質に関わる問題から、今後生産に急ブレーキがかかる可能性が出てきている。経済成長が鈍化するということは、地方の貧困地域が都市部にキャッチアップすることが益々難しくなるということを意味するとともに、膨大な労働力が供給されることを意味する。

アジアの潤沢な労働力が総て日本の労働力と競合する訳ではないが、日本の労働市場にとって大きな圧迫要因であることは間違いない。

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