今日(8月14日)の日経新聞朝刊は「ゴールドマン・サックスは傘下のヘッジファンドに30億ドル(3千5百億円)の資本を注入することを決めた」「サブプライム問題の拡大による株価の乱高下のあおりを受け、8月に入り運用成績が急速に悪化しはじめたためだという」という記事が出ていた。この記事を読んでどうしてゴールドマンが資金を注入するのか?という意味が完全に理解できる人は少ないだろう。もし理解できる人がいるとそれはプロであり、そのような人は日経新聞を読む必要はない。
一般に日経新聞の記事は無意味なものが多い。つまり紙面を割いてニュースを報道しているが、そのニュースからメッセージが伝わってこない。そのニュースに我々が何を感じどう行動するべきか?というメッセージがない。つまり断片的な事実(しかも時として不正確な)はあるが、事実の地下水脈である「真実」を把握しようという姿勢がない。
さてゴールドマンのファンドの話であるが、これは同社の旗艦ヘッジファンドである。このGlobal Equity Opportunities fundというのは、株式のロング(買い持ち)とショート(売り持ち)を組み合わせた投資手法で、数学的モデルを使って割安株と割高株を探し出している。つまり株式相場の上昇下落に関わらず、リターンを上げることができるというのがこのファンドのコンセプトだ。
ところが先週米国株が少し上昇した時、ボラティリティが急上昇した結果、この数学的モデルが機能しなくなり大きな損失が発生した。このことを直感的に理解するために次のように考えてみよう。運用者はあるセクター(たとえば自動車)のA社を過小評価銘柄ということで買い持ちし、B社を過大評価銘柄ということで売り持ちしていた。市場が正常であれば、時間の経過とともに市場が評価を見直すのでA社の株価はB社の株価に対して相対的に高くなる。したがって株式市場が上下しても利益を得ることができるという訳だ。
問題は市場が正常でなくなったことだ。投資家達はサブプライム関連の損失をカバーするため、優良銘柄の売却も始めた。この結果上で例示したような裁定取引が吹っ飛んでしまったという訳だ。
ファイナンシャルタイムズ(FT)は「我々は二つのことを学んだ。最初が金融における接触感染である。「悪い投資」による損失を修復するためファンド達は良いポジションを売り始めている。これは2ヶ月前に債券とクレジット市場がポジションの巻き直しを始めた時、最も恐れられたシナリオだ」という。
次にFTは「混みあった取引手法」(Crowded trades)が問題だという。つまり多くのファンドが同じ様な手法~例えば上で述べたロングショートのような~で投資するから、損が発生する時は雪達磨式に損が発生するという。
ところでゴールドマンが何故30億ドルの資金を注入したか?ということについてFTはゴールドマンは彼等の名声を守ろうとした・・・と言っている。これは私の推測だがゴールドマンが守ろうとしたのは「売り買いを両建てする」という伝統的ヘッジファンドのチャンピオンとしての名声だったろう。つまり通常の金融市場なら確実に利益を上げ続けられるという運用手法だが、サブプライム市場の崩壊という滅多に起きない災害に出会ったのでそれについては救済するという理屈だ。また更に付け加えるとプライムブローカーとしての商売の確保という魂胆もゴールドマンにはあったかもしれない。つまりゴールドマンのような投資銀行はヘッジファンドを相手とした複合的な証券取引で利益を上げているので、ファンド業界が縮小すると儲けが減るという訳だ。これは私の勝手な解釈だが。
FTはゴールドマンのニュースをポジティブに扱うことは何か次の悪いことが起きるのではないかと恐れを抱くより合理性がないと述べている。
一つの金融的なニュースが持つ意味というものは、伝えるメディアの力量により全くことなるインパクトを読者に与えるものだ。