サブプライムで巨額な損失を出したファンドが欧米の金融界を震撼させている。昨日はパリバのファンドがその仲間入りしたというニュースがあった。巨額の損失を出したファンドで有名なところはベア・スターズの二つのファンドだが、ファイナンシャルタイムズ(FT)はこれについて殆ど誰も答えられない疑問が二つあるという。
「どうして彼等はそれ程多くの資金をそんなに急速に失ったのか?」「どこに同じ様な問題が埋もれているか?」
これらの疑問に満足のいく答が得られないため、市場のボラティリティが高まっている。デリバティブという複雑なものが、市場参加者の疑心暗鬼を増幅しているという訳だ。それはどういうことかというと、デリバティブや複雑な金融商品の金融商品に関わる含み損が、日々評価されていないということである。例えば多くの年金基金や保険会社はサブプライムにリンクしたデリバティブを保有しているが、損失を計上していないとFTは言う。
以下は可能性の話だが・・・と断りの上でFTはベアスターンズのファンドの損失について推論を行っている。
- 5月15日にベアスターンズの2つのファンドは年初来時価が6.5%下落したと報告した。多くのサブプライムにリンクした証券は2月に半額になっていたので、ベアスターンズの保有証券の質は高かったという推定が出来る。一方可能性としてはベアスターンズのファンドは実際には2月に含み損を抱えていたが、その損失を表面化させたのが数ヶ月後だったということもありうる。
- 6月7日に損失は19%に拡大した。この時点でサブプライム市場は反発し、バーナンキ連銀議長も危機は回避できたと示唆していた。市場が回復しているのにどうしてベアスターンズのファンドは損失が拡大するのか?という疑問が当惑を呼んだ。
- そして7月18日、ベアスターンズは5月と6月の月末の運用成績を測定しようと一所懸命計算したが、どれだけの損失を出したか分からないと報じた。2週間もたたないうちにファンドは破産申請を行った。
ここでFTはベアスターンズのファンドは大部分の人々が考える様なやり方で財産を失ったのではないか?と推定する。つまりファンドが5月と6月に損失したとするならば、ファンドは質の高いCDO(プール化されたローン債権。Collateralised debt obligation)以外のポジションを持っていたに違いない。ある専門家はファンドは質の低いサブプライムローンの価格が下落すると儲かるポジションを取っていたという。ところが市場で起きたことは質の低いサブプライムローンの価格は反発し、質の高いローンの価格は下落した。
この推論が正しいとするとベアスターンズの2つのファンドは、ヘッジをかけたつもりがロング・ショート双方のポジションでやられたということになる。
今日の話は少し金融に詳しい人でないと分かりにくいだろうし、興味も涌かないものだろう。しかし多少なりと相場でポジションを取ったことがある人なら、ヘッジした積もりがヘッジが効かなかったり、元々のポジションとヘッジポジション双方で損失を出したりした経験をお持ちだろうと思う。
トレーダーの間には「完全なヘッジは日本庭園の垣根(英語ではヘッジという)だけだ」という諺?があるらしい。語源的にはHedgeは元々垣根という言葉で使われていたが、16世紀末頃「保険をかける」という様な使い方をされ、今では重要な金融用語になっている。しかしヘッジというものは時々機能しないからやっかいだ。僕等はこれを「往復ビンタ」と呼んでいた。