サブプライムローン問題が世界の金融界を震撼させ、銀行株が下落している。MSCIワールド・インデックスによると全業種ベースではまだ年初の株価を上回っているが、銀行セクターは既に年初より5ポイント以上下落している。邦銀の株価もこれにつれて下落しているが、邦銀はほとんどサブプライムに対するエクスポージャーはないのに何故株価が連れ安になるの?という疑問がでる。
これに対する私の解釈は「ババ抜きゲームに入れてもらえなかったのにババを持っていると疑われた」・・・という仮説である。まず「ババ抜き」からスタートしよう。最新のエコノミスト誌は信用リスク市場をババ抜きに例えている。
- 古いスタイルの金融というものはババ抜きに似ている。カードをやり取りするように銀行間でローンをやり取りする。そして最後に一枚残ったのがペアに成れなかった孤独な女王つまり不良債権だ。
- 過去数十年間でゲームは変わってきた。証券化は「ババ」を細かく砕き新しく加わった多くのプレーヤー達にくばることを可能にした。そしてゲームが終わった時多くの投資家が少しづつ損失を分担した。昔は大きな損失を一人のプレーヤーが担ったのだが。
今回の世界的な信用トラブルの特徴は震源地はアメリカなのだが、突然火の手がカナダやドイツで上がるところが特徴的だ。(無論アメリカでは十分火は燃えているが)
ドイツでは少し前に私のブログでも書いたが、IKBという特殊銀行がサブプライムローンをパッケージにした証券投資の損失で破綻寸前まで追い込まれた。ここで「何故ドイツの銀行が資産担保証券投資に積極的だったか?」ということを考えてみよう。
ドイツの銀行(ユニバーサルバンク)は「民間商業銀行グループ」「信用共同組合グループ」「貯蓄銀行(公法上の金融機関)」の3つのグループに分類できる。貯蓄銀行の中には州銀行(Landesbanken)などが含まれるが、州銀行は収益性が低いので「ハイリスクハイリターン」のサブプライム市場に投資したとエコノミスト誌は述べている。
さらにもう一つの理由が考えれる。それはローン債権等の資産を流動化する仕掛けこれを金融用語では「導管」というがこれはConduitの訳語だ。その「導管」だがこれは北米と欧州で人気が高い。人気が高い理由は銀行にとっては資産を減らすことで自己資本比率を改善することができるし、投資家にとっては米国国債と同じ格付ではるかに高い利回りを得られたからである。
エコノミスト誌は「1998年に最初の洗練された『導管』がバイエルンLB・ウエストLBという二つの州銀行で確立された」と述べている。『導管』のようなストラクチャード・ファイナンスは更に進み、SIV(Structured Investment Vehicles)というレバレッジの高いスキームが出現している。またこれは銀行のクレジット・ラインをほとんど確保しておらず、超過キャッシュフローをクッションとしている。
以上やや話が細かくなったが、ドイツの銀行が何故サブプライムローン投資に熱心だったかというと「伝統的銀行業務の収益性が低かった」「資産担保金融の仕組み作りに熱心だった」ということになる。そしてその結果「ババ抜き」でババをつかんでしまった銀行が出たということだ。不幸なことはそのババはつかんだ銀行の財布に比べて大き過ぎたということだろう。
ところで邦銀の話に戻ると私は「一連のババ抜きゲームに入っていなかった」と考えているが、これは邦銀側が「主体的に入っていなかった」とも解釈できるし「ゲームに入れてもらえなかった」という解釈もできるかもしれない。後者の意味するところは国内の資産担保金融市場が未成熟で技術力のある金融マンが不足しているということだ。
もし邦銀のトップが次のようなメッセージを送ると市場は良しとするだろうか?あるいはパロディと考えるだろうか?
- 当行はサブプライム関連の投資は(ほとんど)行っていない。もしサブプライム関連の投資を行っていたらもっと収益が高かったはずである。
- 当行は自分で理解の出来ないストラクチャーには投資をしない。甲か不幸か当行幹部はサブプライムやSIV等複雑な商品を理解しなかた。
- よってサブプライム投資を(ほとんど)行っていない。
なお邦銀の中では新生銀行が比較的早くサブプライム投資に関わる損失を発表していたが、これは同行の顧客基盤が強固でないことと同行がストラクチャード・ファイナンスに強い血脈を持っていることの自然な帰結であろう。