芭蕉の句で有名な象潟(きさかた)に行ったことはこの前のブログで書いたが、象潟に始まる小ネタを書こう。芭蕉は奥の細道で象潟の寺を干満珠寺と書いているが、今このお寺の名前は蚶満寺(かんまんじ)となっている。
司馬遼太郎は「街道を行く」の中で蚶満寺の古い名前は蚶万寺ではなかったか?と考察している。古代象潟は蚶方と言ったらしい。蚶方は「きさかた」と読むことができ、赤貝を指す。つまり約2百年前に隆起するまで多島海であった象潟では赤貝が沢山とれたので、蚶方の地名が生まれた。その内「方」の字が「万」と間違われ「蚶万」となり又「蚶満」となったというのが、一般的な考察のようだ。
ところで赤貝から話が味噌汁の具に飛ぶが、今回庄内地方を旅行して食事の時に良くでたのが、ツブ貝のような小さな巻貝が入った味噌汁である。今回酒田で有名なすし屋「鈴政」http://nr.nikkeibp.co.jp/selection/20060210/で旅行最初の昼食を食べたが、その時の味噌汁が「貝の味噌汁」(残念ながら貝の名前を失念した)と「どんがら汁」のどちらかを選ぶものだった。私以外の3人は「貝」を選んだが私は魚のアラの「どんがら」を選んだ。
何故私がその時「どんがら」を選んだかというと、ふと藤沢周平の「盲目剣谺返し」のことを思い出したからだ。何故藤沢周平かというと、この日の午後彼の故郷・鶴岡市を訪ねることになっていたので彼のことを考えていたのだろう。この「盲目剣谺返し」は少し前木村拓哉が主演する「武士の一分」という映画になったのでご存知の方も多いだろう。キムタク演じる主人公の三村新之丞は殿様の毒見役を務めていたが、ある時ツブ貝の毒に中り盲目になってしまう。その盲目となったキムタクが妻(壇れい)を騙して手篭めにした上役(坂東三津五郎)と決闘して勝つというのが話の粗筋だ。
いや話が長くなったが、私は一瞬このツブ貝の毒のことを思い出し、貝の味噌汁を敬遠し「どんがら」を選んだのである。こんなことをいうと酒田一の寿司屋・鈴政に「うちはそんな変な貝はださん!」と叱られるかもしれないが、人間の連想力にはいかんともし難いものがある。
といってもつぶ貝の味噌汁を敬遠したのはこの時だけで旅館の夕食時にはもう貝の味噌汁を飲んでいた。(同行の3人のお毒見が終わっていたから・・・・)
貝といえば今回「岩牡蠣」やアワビも食べた。美味しい貝が取れるということは栄養分をたっぷり含んだきれいな水が海に流れ込むということだ。北に鳥海山がそびえ、南に月山を盟主とする出羽三山がどっしりと構えた庄内の海の幸は実に豊かだ。
象潟の話が映画「武士の一分」や貝の話にまで飛んでしまったが、旅というものは人間の連想力を加速するもののようだ。だから旅は楽しい。