新聞によると海賊対処法案が14日に衆議院で審議入りした。日経新聞によると法案の柱は①「海上自衛隊の護衛対象を外国船にも拡大する」②「商船への接近をやめない海賊船に船体射撃を認める」の2点だ。私は①について賛成②についても賛成だが、もっと現場に柔軟な対応を与えてよいと考えている。日本がいかに現実的で有効な海賊法案を成立させることができるかどうかは日本の危機管理能力が試されていると言っても良いだろう。
①の問題から考えよう。外務省はHPで「海賊問題の現状と我が国の取組」を発表している。その中で同省は「海賊対策は、何よりも日本国民の生命及び財産の保護の観点から急を要する課題」と述べている。だが現在の海運業の複雑さは「何が自国の財産か?」という線引きを困難にしていることをまず考えないといけない。
以下の例は米国の外交問題評議会のHP" Combating Maritime Piracy"から引用したものだ。「商船がハイジャックされた時、どの国が海賊を起訴するかただちには明らかでない」「典型的な事例で考えよう。商船は日本で建造された。所有者はマルタ島の会社。会社を経営しているのはイタリア人。船の運行管理を行っているのはキプロスの会社。フランスがチャーターし、船長はノルウェー人で乗組員はインドネシア人。船籍はパナマで、英国の銀行がシップファイナンスで融資を行い、荷主は多国籍石油会社。ハイジャックされた場所はインドネシア近くの公海で逮捕したのはフィリッピン」
この例で二つのことに注目しよう。まず「船舶や積荷の所有や船舶の運営に関する多国的な関係」だ。簡単にこれは「自国の財産」これは「他国の財産」と簡単に線引きできないことが分かる。
次に外交問題評議会が取り上げているのは「海賊からの防御や海賊逮捕」の問題ではなく「海賊の起訴」の問題である。評議会はHPの最初の方で次のように述べている。The complexities of international maritaime law maike it difficult to prosecute pirates once they are caught. 「国際海事法の複雑さは、海賊が逮捕された時起訴することを難しくしている」
これを見ると問題となっているのは、逮捕後の起訴をどの国の法律で行うか?という議論で「誰が逮捕するか?」ということは問題になっていない。ましてや「自国の船だけ護衛する」などということは議論にもなっていない。今年の1月時点で米、ロシア、フランス、英国、インドなど12以上の国が30隻以上の船をソマリア近海に派遣している。これは海賊行為に対する抑止力にもなっている訳だ。誰がどこの船を守るなどという問題ではない。
話は長くなったが、遅れに遅れて自衛艦を派遣した日本が「国際社会の常識」から逸脱したような「自国船だけ護衛」などというようなことをいうと、まったく阿呆扱いされるだろう。
「武器の使用」について十分論じる時間がなくなった。結論だけいうとこれも「日本独自の基準」に固執するよりも「何がハイジャックされた(あるいはされそうな)船員と自衛官の安全を守る上で有効な手段か?」という目的にそって柔軟に臨機応変に対応するべきことだろう。
海賊はソマリアだけでなく、ギニア湾、マラッカ海峡、インドとスリランカの間にもいる。商船の航行が多く、かつ根城とする国の治安能力が低下している地域に海賊ははびこる。因みにソマリアは世界で一番破綻度合いの高い国だし、ギニア湾周辺の国家もそれに続く破綻国家だ。破綻国家が増える傾向にあることは海賊の増加を示唆する。
日本の迅速で弾力的な危機対応能力が問われている。