4月14日にゴールドマン・ザックスがTarp(不良債権救済プログラム)からの出資金100億ドルを返済する目的で50億ドルの増資を行った。また16日にはJPモルガンチェースが増資を行わなくてもいつでも250億ドルの公的資金を返済できると宣言した。優良銀行による公的資金返済競争が起きつつある。優良銀行が公的資金返済を急ぐ理由は幾つかある。経営層に対する報酬制限の回避、外国人スペシャリストの雇用などによる競争力の確保などだ。
だが一部の優良銀行の返済競争についてエコノミスト誌は「銀行は孤立した存在ではない」と警告を発している。優良銀行が公的資金の返済を急ぐと、返済できない銀行は問題銀行とみなされ、株価の急落や資金流出、調達コストの急騰を招き、金融市場が混乱を起こすからだ。そうなると優良銀行にとっても「カウンターパーティ・リスク」が増加するから、結局優良銀行も優良でなくなってしまう・・・ということだ。
優良銀行か問題銀行かの判定はストレステストの結果からも下される。ストレステストの結果は2週間以内に発表される予定で、今当局はテスト結果の開示レベルに頭を悩ませている。7000億ドルのTarp資金はもはや固く見積って320億ドルしか残っていないし、増税や国債増発反対デモなどが起きている現状、議会が追加資金の投入を簡単に認めることはないので、オバマ政権の選択肢は限られている。
ファイナンシャル・タイムズはストレステストの結果発表を3つのシナリオに分けて問題点を示している。第一は「向こう数ヶ月間更に経済が悪化しても銀行は健全」という超楽観シナリオを示すことだ。しかしこのシナリオが成功するためには市場からストレステストが「十分厳しい」ものだったという信頼を市場から得る必要がある。
第二のシナリオは「銀行が資本不足である」ことを明らかにするというものだ。資本不足を宣言された銀行は向こう半年の間に民間から増資をする必要がある。民間からの増資ができないと公的資金を追加投入することになるが、Tarpには資金がないことを市場は知っているので、オバマ政権の金融安定化策そのものに不信が高まるリスクがある。
第三のシナリオは「銀行を国有化して、既存株主価値及び上位債権者の価値おも毀損させる」方法だ。しかしこの方法はオバマ政権が既に否定している。
以上のように見ると「市場が信頼するにたるストレステストの結果を示しながら、金融市場の混乱を避ける」というのはかなりの難作業に見える。来週あたりから市場はこの問題にもっと注目していくだろう。
ところで先程Tarpに320億ドルしか資金が残っていないと言ったが、財務省は1,350億ドルの資金投入が可能と計算している。これは財務省が「優良銀行からの返済」を既に見込んでいるからに他ならない。ということは早期に公的資金を返済する数行がでて、その資金を問題銀行の資本増強に充てるということを財務省が認めているということだろうか?