米銀のストレス・テスト結果発表が近づくにつれて、色々な観測が市場に流れている。昨日のファイナンシャルタイムズとニューヨーク・タイムズを見ると、米政府の大手行に対する対応について違った切り口から記事が出ていた。
FTの記事は「TARP(不良債権救済プログラム)資金の返済に条件をつける」という政府見解を紹介したもので、経済的な国益を判断した上で国は返済の可否を決めるというものだ。具体的には「金融システムが安定している」「リセッションを悪化させる可能性のあるような公的資金返済インセンティブを作らない」「景気回復をサポートする信用供与を行う資本を金融システムが十分に持っている」ことが条件となるとある政府官僚が話をしていた。
ニューヨーク・タイムズは「オバマ政権のアドバイザリー達は政府資金を追加投入することなく、銀行の資本不足を解決するため、劣後ローンを普通株に転換することもありうると決定した」と報じていた。劣後ローンを普通株に転換すると「損失をダイレクトに吸収」できるので、これ以上公的資金を投入する必要がなくなる。しかし納税者資金を毀損する可能性は高まる。また国が銀行の(場合によっては最大の)株主となることで、マクロ的な金融・経済政策と個別銀行の株主価値を最大化するという事業戦略の利益相反を抱えてしまうことになる。だからオバマ政権は国有化策を否定してきた。しかしTARP資金が枯渇してきているので、普通株転換策やむなしというのがNTの見解のようだ。
FTの記事とNTの記事を重ね合わせると、近い将来の米銀のスペクトラムが透けて見える。つまり条件付ではあるものの、TARP資金を返済した「強い銀行」と「政府劣後ローンを普通株に転換した弱い国有銀行」とその間の「劣後ローンを受けている銀行」が誕生する可能性だ。このような階層で構成される金融市場がうまく機能するのかどうか私には分からない。
ところで今日某銀行の営業担当役員と話をする機会があった。彼によると「5月頃一回株式相場が下げる局面があると、底入れ感が出て回復の兆しが見えるのですが」ということだ。また彼は面白い比喩を使っていた。「今の経済環境でV字型の回復を期待するのであれば、足下を掘り下げ、立ち居地を低くするしかありませんね」。つまり赤字を出し切って落ちるところまで落ちない限り、V字的な回復はないという話。
米銀ももう一度足下を掘る必要があるということだろうか?