金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

最悪なことは最悪が終わったと決めてかかること

2009年04月25日 | 社会・経済

昨日付けのエコノミスト誌に、景気に対する楽観論に厳しい警鐘を鳴らす記事が出ていた。「世界経済にとって最悪なことは最悪な事態は終わったと決めてかかることだ」というタイトルの下にはちょうちんアンコウの灯りに群がる小魚とその下で大きな口を開けるアンコウの漫画が描いてある。

エコノミスト誌は株式市場のラリーに騙されるなと警告する。投資家はより大きな利益を狙って統計が景気回復を示す前に投資を始めるからだ。もっともこのブログで少し前に紹介したが、ニューヨーク証券取引所の会長が「3月のラリーには機関投資家は参加しておらず、短期の鞘取り狙いの投機家が相場を持ち上げた」と相場の実態を分析している。

エコノミスト誌によると1929年の大恐慌時に32年までの間にダウ平均は4回20%を超える上昇を示したが結果は元の株価以下に下落して終わった。今回も10%以上株価が上昇するラリーが5回あったが結局下落して終わっている。

エコノミスト誌が楽観論に警告を発する理由は次のとおりだ。

  • 製造業では世界的な需要減退を上回るペースで生産調整を行った結果、在庫調整が進み生産が再開される見通しだ。製造業のリセッションは最悪期を脱するだろう。
  • しかし「銀行危機」と「バブル経済の債務解消」という二つの問題は、特に米英において長引くだろう。歴史は「バランスシート・リセッションは長引き、回復は弱々しいものである」ことを示唆している。
  • IMFの予想では今年の世界の生産高は1.3%収縮する。これは過去60年間で初めてのこと。世界の中央銀行は数兆ドルの流動性を供給し、政策金利をゼロに近づける対策を取っている。また政府は銀行を救済するために数兆ドルの資金を供給している。このため先進国の財政赤字は平均してGDPの9%近くになる見込みだ。これは危機の前の6倍のレベル。しかし政府支出は目一杯で、真の景気回復は民需がおきるかどうかにかかっている。
  • 国別に見ると米国の住宅市場は他の国よりも早く調整を始めた。財政出動や急速な在庫調整の結果、経済は遠からず成長路線に戻るかもしれない。しかし失業率と破産の増加が新たな、たちの悪い下降局面をもたらす可能性がある。
  • 英国は米国より悪い状況(詳細省略)
  • 理屈の上ではドイツと日本の見通しは英米より明るいはずだ。両国は英米より民間債務が少ないので、在庫調整が済むと急速な回復をするはずだ。しかし実際にはそのような回復は特にドイツでは起こりそうにない。生産の下落により、失業率は二桁に向かっているし、財政出動は欧州標準よりは大きいものの、やればできる規模に比べるとかなり小さい。更に悪いことにドイツの銀行は問題を抱えている。
  • 日本はドイツに比べるとはるかに強い財政政策を取っている。この結果経済は少なくとも一時的には活性化する。しかし日本の公的債務はGDPの200%に近づいていて財政出動の余地はなくなっている。期待できるところは内需振興だが、過去20年の実績から見ると日本が内需シフトできるという見込みはほとんどない。
  • 目下のところ最も明るい兆しが見えるのは中国だ。中国の景気刺激策は効果を出し始めている。貸付は拡大しインフラ投資は素早く伸びている。IMFは中国の経済成長を6.5%と予想しているが、これを上回る成長を遂げる可能性がある。中国の問題は成長エンジンの4分の3が政府需要という点だ。

エコノミスト誌の記事はまだ続くが紹介はこの程度にしよう。この記事が一番ターゲットしているところは、各国の政策担当者や中央銀行のように見える。つまり一部の景気回復の兆しが見えると勘違いして、今の超緩和政策や財政出動を躊躇するとたちまち新たな危機が起きると警告を発している。

これは行動経済学が指摘するところの「自信過剰」(一般の意味とさして変わらない)という性癖から経済・金融の専門家も免れていないことを自覚しなさいという警告と考えて良いだろう。行動経済学の教科書は「悪いことが起きる確率を過小評価し、今目の前に起きていることがコントロール可能だと思い、成功の確率を主観的に高く評価する」(「経済は感情で動く」より)と指摘する。

では我々は行動経済学が指摘する色々な心理的弱み(アンカリング効果とか保有効果など)をどうすると克服することができるのだろうか?残念ながら私が読んでいる本には特効薬は書いていない。ただそのような弱点を人間は持っているものだと自覚することで多少は正しい判断が行える可能性が高まるという示唆はあるが。

コメント (1)
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