何事によれ事情をよく分からない人に簡単に説明する方法は比喩を使うことだ。ただしこの方法の問題は比喩が一人歩きして聞き手の中で勝手なイメージが膨らむリスクがあることだ。
さて民主党政権の権力構造については、米国の外交専門家の間の大きな関心事で外交評議会のホームページに「日本の新しい影の将軍」Japan's New Shadow Shogunという記事が出ていた。書き手はTobias Harris氏というMITの博士課程の人だ。新しい影の将軍とは民主党の小沢一郎氏のことだ。Harris氏の小沢氏に対する研究や理解は非常に深いものがあるが~内容は日本のマスコミ等で得られる情報と変わらないので省略して~、面白いところを述べると「小沢氏と鳩山代表の関係は、ビル・クリントンとオバマ大統領の関係に似ている」と説明している点だ。
原文を引用するとThe question now is how to fit this outsize figure into the new government -- a problem similar to the one faced by Democratic Party loyalists in the United States over Bill Clinton's role in the Obama administration.
「今の問題はこの大物(小沢氏)を新しい政権にどのように当てはめるかということだ。これはオバマ政権におけるクリントン元大統領の役割について民主党支持者が直面した問題と同様のものだ。」
さて冒頭「比喩は一人歩きして聞き手の中で勝手なイメージが膨らむ」と言った理由は、後段でHarris氏が「鳩山代表は政策に関する知見が乏しく、弱い指導者だという評判があるので、小沢氏を内閣に入れることは意味があるだろう」と述べている点だ。この論法で行くとオバマ大統領が政策の知見に乏しくリーダーシップが弱い・・ということになる。(これはHarris氏の本論でないので揚げ足をとることは良くないが)
話を本筋に戻すとHarris氏は「小沢氏を幹事長に据えるのが、恐らく鳩山代表の望むところで、次の参院選挙対策上もベストなのだけれども、これでは民主党の公約~権力の二重構造廃止~に反するから困難だ」と述べる。そして「鳩山代表は指導力が弱いので、彼の成否は強力な閣僚を揃えられるかどうかによる。小沢氏は副首相か無任所大臣として入閣すると良いのだが、それでは鳩山代表はアヤツリ人形と批判を浴びるだろう」と続ける。つまり幹事長ポストも副首相ポストも難しいという意見だ。
もっとも最後にHarris氏は現在の民主党は過去よりも結束が強いので小沢氏の影響力を過大視してるのかもしれないと結んでいる。
いずれにしても鳩山代表は「政策に関する貧困な知見しかない弱い指導者」と決め付けられているので、もし彼がこの文章を読むと不快感を禁じえないだろう。ひょっとするとこれは「米国ともっと対等な関係を求める」とか「インド洋での給油活動を止めることを示唆」したことに対する悪印象が背景にあるのかもしれない。これは全くの個人的推測だが。
いずれにせよ世界の日本ワッチャーは新内閣と民主党の新体制において小沢氏をどう処遇するか、旧社会党系の人や社民党をどう取り扱うかという辺りに大きな関心を置いている。これは鳩山代表の指導力の試金石でもあるからだ。