金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

アメリカに見透かされた鳩山外交

2009年09月18日 | 国際・政治

今週のエコノミスト誌はPoodle or Pekinese? (プードルかペキニーズか?)という題で鳩山新政権の外交問題を解説している。プードルかペキニーズかとは「米国向き」か「中国向き」かということの比喩だが、プードルの中にはある揶揄が秘められているようだ。まあ、これは最後に明らかにするとして記事のポイントを紹介しよう。

エコノミスト誌は来週のG20で鳩山首相が外交デビューするが「政権交代が諸外国にとって何を意味するのかはミステリーのまま終わるのじゃないか?」と述べる。

今までのところ新政権は非常に矛盾したメッセージを発信している。エコノミスト誌が特に指摘しているのは「新政権は米国と『より対等な関係』を確立すると言いながら、国防予算を増加させる余地がほとんどない」という点だ。以下は明白な事実だが再認識のため改めて述べておこう。

第二次大戦後、米国は日本に134の米軍基地を起きその総面積は東京の1.5倍になる。当初米国は日本の非軍事化を進めたが、冷戦時代に入り再軍備を進めた。そしてブッシュ前政権の時に「テロへの参戦」を奨励した。米国の防衛力のお陰で日本の国防予算はGDPの1%程度と非常に低い水準で済んでいる。米国の国防予算は4%だ。北朝鮮のミサイル・核攻撃リスクや中国の潜水艦隊増強などの軍事リスクを考えると「より対等な関係」を求めると、日本は独自で防衛力を増強する必要がある。GDPの1%というと「子ども手当」と同額の金額だ。「子ども手当」の財源も不明(少なくとも私には)の中、「対等な関係」に必要な国防予算をどう捻出するのだろうか?それとも鳩山内閣は防衛は米国に任せたまま、対等な関係を主張するのだろうか?

もし後者だとするとこれは全く世界に通用しない妄言である。

この辺りを見透かして次のアメリカン・ジャーナルで3人の専門家が民主党の対米主張は形だけだろうという解説を行うとエコノミスト誌は述べている。より詳しく専門家の主張を紹介すると「ブッシュ前政権の外交政策を批判していた民主党は『オバマ大統領はブッシュ前大統領とは違う』という口実の下でオバマ政権と歩調を合わせたいという強い意志表明を行うだろう。『より対等な関係』というのは象徴的なもので、実質的な修正やコストを伴うものではないだろう。」ということだ。

エコノミスト誌は「日本にとってアジア諸国との親交関係の確立は必ずしも米国との関係悪化を伴うものではない」と述べた後「歴史を見ると国を開いている時の日本は、覇権国家や覇権を目指す国家~近世の中国、ナチス・ドイツ、戦後の米国~を見つけ、サポートする傾向があった」と解説している。そして昨今の日本政府は冷戦後の外交政策の明確化に苦労してきたが、鳩山政権は新しい試みをする良いポジションにいるかもしれない」と述べている。

さてそこで最初に述べた「プードル」が秘める揶揄である。実はプードルには「媚びへつらう人」という意味がある。ペキニーズは中国の愛玩犬だから、エコノミスト誌がいうPoodle or Pekineseは「鳩山首相は米国に媚びへつらう人か中国の愛玩犬か?」というニュアンスを含んでいるかもしれない。深読み過ぎるかもしれないが、英国人は時として意地の悪いユーモアを使う。真偽はさておき「対等を主張するなら国防費をもっと使え!」という批判は内包している記事だと私は読んだ。

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「官主」「民主」の民は「民主党」の民か民意の民か?

2009年09月18日 | 政治

今日(18日)の日経新聞朝刊「鳩山内閣は歴史的な使命を帯びている。始動する鳩山政権」に「『官主』政治から『民主』政治への転換をてこに、冷戦後の失われた時代から日本を浮揚させる使命である」という一文があった。無論この認識は正しい。

しかしスタートしたばかりの鳩山内閣の何人かの閣僚の言動を見ると『民主』政治の民は「民意」の「民」なのか「民主党」の民なのか疑わしくなる事例がある。例えば亀井郵政・金融担当相の「中小企業に対する3年間のモラトリアム」発言だ。亀井大臣の所属する国民新党は今回の選挙マニフェストで「中小企業に対する3年間のモラトリアム」を掲げている。だが民主党はそのようなことを掲げていない。民主党の中小企業支援策の主なものを抜粋すると「貸し渋り・貸しはがし対策を講じるとともに、使い勝手の良い『特別信用保証』を復活させる」「金融機関の対して地域への寄与度や中小企業に対する融資状況などの公開を義務付ける『地域金融円滑法』を制定する」というものだ。

地域金融円滑法の詳しい内容は分からないが、概ね米国で実施されている「地域再投資法」Community Reinvestment Act (CRA)の日本版だろうと理解している。私は民主党支持者ではないが、金融機関が地域で集めた資金(預金)を地域に還元することを促進する「地域再投資法」のような法律を日本で実効性の高いものにして行くことに賛成だ。

ここで注意しないといけないことは「地域再投資法」は金融機関の融資について「健全性」を求めていることだ。つまり金融機関に明らかに損失となるような融資を求めている訳ではないのだ。

本題に戻ると今回の選挙で民主党に投票した人は「3年間のモラトリアム」を支持したのだろうか?私は大部分の人はこのようなことを想起だにしなかったのではないか?と考えている。

マスコミでは一部の識者が「マニフェストはマニフェストとして政権を取った後は現実的に対応すればよい」といったことを物知り顔で書いているがこれは大変な暴論である。国民は決して民主党政権にフリーハンドを渡した訳ではないだろう。

マニフェストに書かれていないことを行う場合は改めて『民意』を問うのが民主主義というものだ。現在のところ「党議拘束」が厳しい日本の政治の仕組みの中で、選挙民の意見を選出した議員を通じて国会に反映することは難しい。このことに関して私は基本的には「党議拘束」を緩やかにして民意がダイレクトに国会に反映する仕組みを導入するべきだと考えている(無論「大統領制」の下党議拘束のない米国と議員内閣制の日本で枠組みが異なるので米国型は難しい。ただし英国などに参考例はありそうだ。)

当面の課題としては「マニフェストに書いていないことやマニフェストと異なることを行う場合は世論調査などで民意を尊重する」というのが妥当な政策運営だろう。

いずれにせよ連立政権の少数党の意見が「民意」のように扱われるようでは「官主」政治の「官」が「民」ではなく「党」に変わっただけではないだろうか?このようなことを繰り返すと国民は実務に疎い「政党」に振り回されるよりまだ「官僚」の方がまし・・・ということにならないだろうかと私は懸念している。

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