金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

銀行を国の保護から引き離すべし

2009年09月11日 | 金融

エコノミスト誌は不自然な選択Unnatural selectionという題で「金融危機も峠を越したのでそろそろ銀行に対する国の支援・保護を止めるべきだ。さもないと銀行の肥大化がとまらない」という趣旨の記事を書いている。

ポイントは次のとおりだ。

  • 米国、ユーロ圏、英国における政府の銀行に対する資本注入、融資、保証の総額はGDPの約6分の1に達している。銀行は超低金利と財政発動という脱脂綿に包まれている。
  • この結果、銀行にはその必要性を超えて可能な限り巨大化したいというインセンティブが働いている。現在の銀行のバランスシートは2005年の中頃に較べて40%も膨らんでいる。銀行の中には利益を上げ大きなボーナスを払っているところがあるがこれは、異常な環境の中で起きていることなのだ。

ここでエコノミスト誌は国の明示的な銀行支援(債務保証など)を期限付きで終了させることは、相対的に単純なことだが、国の暗黙的な支援つまり「銀行が破綻しそうになった時は国が救済するだろう」という想定が働くことが問題の核心だと述べる。

そしてそれを解決する方法は「銀行自身をより安全にする」ことと「暗黙的な国の保証に制限をつける」ことだと述べる。銀行自身の安全性を高めるには、今さかんに議論されているように、自己資本比率を引き上げることと資本の質を改善するが必要だし、自己資本比率を引き上げることで銀行のバランスシートが小さくなる可能性があり、過大なボーナスを抑制する効果もあるだろう。だがエコノミスト誌は自己資本規制強化の効き目は鈍いにも関わらず過大な期待が寄せられていると述べる。

そして当局の規制に過大な期待を寄せるのも問題であり、他のオプションとしては銀行にリビング・ウイルを書かせるという方法があるとエコノミスト誌は述べる。

リビング・ウイルとは「人が意識がはっきりしている時に、意識不明になった場合尊厳死を選択する」というような生前意志のことだ。銀行にリビング・ウイルを書かせるということは、銀行が破綻状態になった時の残余財産配分をあらかじめ表明しておく・・・ということなのだろう(最近英国の金融サービス機構のターナー会長がFTのインタビューで表明した考えだが、詳しい内容の説明はない)。

エコノミスト誌はまた銀行にジュニア・ハイブリッド債券で自ら資金調達することもオプションだと説明している。銀行が国の黙示的な保証を失うと銀行自体の体力の強弱やリスクテイクの度合いにより資金調達コストが変わるので、それぞれの銀行はやがて身の丈にあったサイズで生きるようになる・・・というのがエコノミスト誌の結論だった。

☆     ☆     ☆

金融危機とそのリカバリー過程で欧米では「銀行員というのはとんでもなくズルイ奴だ」という意見が増えているようだ。エコノミスト誌はHeads-I-win,tail-you-lose cultureという言葉で銀行員のズルイ文化を揶揄していた。因みにここではHeadはコインの表、tailはコインの裏の意味。「表が出れば僕の勝ち、裏が出ればあんたの負け」という意味だ。つまりどっちにしても僕の勝ちという意味。危険な取引で儲けたら銀行の儲け、損して破綻しそうになると国が救済するので銀行は損しない・・・という意味だろう。

これらの話は「政府の資本注入や債務保証を受けながら、多額のボーナスを払っている米英欧の一部の銀行に関する話」で、余り高いとはいえない給料で一生懸命働いている大部分の邦銀の役職員にはピンとこない話だろう。

だが銀行を取り巻くルールの変更はグローバルなものであり、欧米の銀行規制の強化は必ず日本に及ぶ。極端な比喩だが一握りのテロリストのお陰で一般の旅行者が厳しいボディチェックで不愉快な思いをするようなものだ。

やがて総ての銀行が金融庁にリビング・ウイルを書かされるような時代がくるかもしれない。

話は変わるが調べごとをしている内に「安全な銀行世界50位」というリストに出会った(これはセレンディピティの一つだろう)。リストはGlobal Financeが、ムーディーズ、S&P、フィッチの長期信用格付に基づき、資産規模500位の銀行から選んだものだ。

第1位はKfW(ドイツ国営の開発銀行)で2番目はCDC(フランスの預金供託金庫)だ。その後オランダ、ドイツ、フランスの銀行などが続いている。世界の大手銀行ではBNPパリバ(フランス)が9位、HSBC(英国)が18位、ドイツ銀行が28位、バンクオブニューヨーク・メロン(米国)が32位、JPモルガンチェース(米国)が39位、ウエルス・ファーゴ(米国)が42位などが入っている。上位に入っている銀行については私が知らない銀行も多い(国際金融を離れて久しいので不勉強につていはご寛容をお願いします)。ただ上位の銀行には国営ないし公的機関が大きな出資を行っている銀行が多そうだ。

ということは格付機関もエコノミスト誌がいう明示的および暗示的な国の保証をおおいに評価している・・ということだろう。ところでこの50位に入っている邦銀は静岡銀行1行のみだ。私はメガバンクをはじめ邦銀の大手行は結構安全だと思っているが、世界的に見ると違う風景が見えるということだろうか。

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