金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

FT、亀井金融相の食言を批判

2009年09月30日 | 金融

ファイナンシャル・タイムズ(FT)は9月29日付で亀井金融相の食言を批判している。記事のタイトルはKamei denies plan to freeze loan repaymentsだ。「亀井氏はローンの返済を凍結する案を否定する」ということだ。

記事によると亀井金融相は「私は決して銀行にローンを帳消することを強いるようなことは言っていない」「ローン契約は各々異なるので、総てのローン契約を包括的に規制することはできない」と述べた。しかしFTは「金融相のこのコメントは数週間前から主張していることと矛盾しているように見える」と批判している。

亀井金融相のコメントは返済猶予制度原案作成を担当する大塚耕平副大臣(この人は日銀OB)に支持されたとFTは述べている。

大塚副大臣は「中長期的には金融規制だけでは中小企業の危機を克服することはできない。持続的な成長を可能にする戦略が必要だ」と述べている。

何がどうなって亀井大臣が前言を撤回したは知らないし、日本のマスコミは大臣に遠慮して?余りこの問題を突っ込んでいないが、外人が見ると(もっともFTの記事を書いているのは日本人だが)奇妙に見えることは確かだ。

☆   ☆  ☆

ところで検討中の「返済猶予制度」は果たして上手く機能するものか?どうかちょっと考えてみよう。

まず「制度」が導入されるとすると、それが「強制的」なものでなく「努力規定」でも銀行側は表面的には全面協力の姿勢を示し、借り手から申し出があると真摯に対応する姿勢を示す。借り手から申し出があると積極的に対応しますという訳だ。

ところが金融取引は長期にわたる継続的な取引で、取引履歴が重視されるから、長期に事業継続を考えている借り手は「本当は銀行が嫌がっている」返済猶予を極力避けようとするだろう。「返済猶予」制度に飛び付くのは、目先の資金繰りのことしか考えていない中小企業である。このような企業は既存借入の「返済猶予」を受けても、追加融資を受ける見込みは低い上、本業は不振だから破綻する可能性が高い。

こう考えると「返済猶予制度」というのは、多くの中小企業の資金繰りを支援することを目的とした制度でありながら、結果としては不振企業の命脈を早目に閉ざす制度となる可能性が高い。

また「返済猶予制度」は対象企業の全借入機関に同時に行われないと、銀行間で不公平が生じるだろう。つまりある企業がA銀行の返済は猶予して貰って、B銀行には返済を続けるということになるとA銀行には「不良債権化」する恐れの高い債権が積み上がり、B銀行は「不良債権化」する恐れの高い債権が減少するということが起きる。

以上のようなことを考えると制度の運用は極めて難しい。むしろADR(裁判外紛争解決制度)のような制度の活用を促進する方が現実的ではないか?と考えている。

なお私は原則的に中小企業借入における無制限な社長個人保証を廃止するべきだと考えている(私は民主党支持者でないが、この件に関する民主党主張には賛成している)。個人保証を廃止するとともに、借入人は金融機関により詳細な事業内容な計画を提示して、金融機関は事業リスク判断により融資の可否や融資条件を決めるというのが本筋ではないか?と考えている。

コメント (1)
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