金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

Take a hard line (イディオム・シリーズ)

2009年09月17日 | 英語

Hard lineは強硬路線で、Take a hard lineは「強硬路線をとる」という意味だ。ニューヨーク・タイムズに次の一文が出ていた。Regulators in the United States have not taken as hard a line as the Europeans. 「米国の規制当局者達は欧州の規制当局者のような強硬路線を取ってきていない」という意味だ。何について強硬路線を取っていないかというと、銀行役職員に対する高額なボーナス支払についてである。

フランスのサルコジ大統領やドイツのメルケル首相を含む欧州の首脳陣は今日(17日)「G20にて銀行役職員の高額ボーナスを制限する」ことを求める声明を発表すると予想されている。タイムズはサルコジ大統領はG20で本件が合意に至らないと退場すると繰り返し脅かしている。

一方米国は政府が民間企業の報酬に制限を設けるということに不快感を感じている。ボーナス額を制限するという議論については事情通の間では、今回のG20では決着しないという観測がある。タイムズは But leaders are expected to paper over their differences in Pittsburgh. 「しかしピッツバーグ(G20の会場)では首脳達は彼らの相違点を隠すだろうと予想される」と述べている。Paper overとは隠すという意味だ。

期待できることは精々「ボーナスの支給を後ずらしすることで、短期的な利益極大に走る動きを抑制する」こと位だろう。

邦銀の役職員のボーナスは議論の対象にならない位低いのでG20の結論が大きな影響を持つとは考えにくい。ただし一部の銀行やノンバンクで過度の業績主義を取り入れた結果、不良債権を増大させたような会社は報酬体系を見直す機会になるかもしれない。日本の監督官庁はこのようなことに嘴を入れることが好きそうだからだ。

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亀井モラトリアム発言、馬鹿馬鹿しいが敢えて批判

2009年09月17日 | 金融

新内閣で郵政・金融担当相となる亀井氏が就任前から「中小企業に対して3年間の借金返済を免除する」といういわゆるモラトリアム発言をして波紋を呼んでいる。私はこのようなことが日本国憲法の下で金融相の一言で可能とは考えないので、コメントするつもりもなかったが、多少関心のある方もいらっしゃるだろうから簡単に意見を述べてみたい。

憲法29条は「財産権はおかしてはならない」と規定している。銀行が企業に貸付を行っている債権は財産権の一つであり、これが国家権力により、減らされたり変更されてはいけないと規定している訳だ。もっとも29条2項は「財産権は公共の福祉のために制限を受ける」と定めている。

従ってもし民主党政府が亀井提案のモラトリアムを立法化しようとする場合、内閣法制局が合憲性を審査することになる。そしてもし内閣法制局が合憲と認めた場合、これに反対する銀行界が違憲裁判を起こし、最高裁の判決を求めることになる。

もう少し踏み込んでモラトリアムが行われる可能性を検証してみよう。日本では関東大震災の後モラトリアムが行われたことがある。もっと新しい例では米国・ミネソタ州で1990年代に農家を保護するため、限定的なモラトリアム法案を可決したことがある。

ミネソタ州は大恐慌時の1933年、不動産抵当モラトリアム法を可決して債務に苦しむ農家の救済を行ったことがある。この法律について住宅建設融資協会から違憲訴訟が行われた。最終的に最高裁は5つに基準に照らして合憲であるという判断を下した。5つの基準とは「真に緊急な危機が存在すること」「法律が公益にかなうこと」「契約上の権利が合理的に保護されること」「期間限定で行われること」である。50年後同州は再びモラトリアム法案を可決したが、これが現在の先進国における一つの事例だ。

この基準に照らして考えると現環境下で「全国一斉に中小企業の3年間返済猶予」というような法律が合憲であるとは考えない。しかし地域や特殊な産業限定でモラトリアム法案が提出される可能性はあるだろう。

ただしである。中小企業融資のモラトリアムを行って行き詰るのは、大手行ではなく、地域金融機関である。大手行は他に収入源を持っているから、仮に中小企業のモラトリアムが行われても、凌ぐことができる。しかし地域金融機関は疲弊する。そして健全で前向きの資金需要がある中小企業への融資もできなくなり、結局日本経済は活力をなくす。

こう考えると中小企業の支援には政府保証の拡大等別の方法で対応するべきことは自明である。

コメント (2)
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