金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本で中小企業融資が難しい理由

2011年03月09日 | 金融

3月8日の「帝国ニュース」(帝国データバンク)の「話題の倒産を追う」という囲み記事で100円ショップなどを展開していたジャストワンの倒産が取り上げられていた。

記事によると当社は「取引銀行数を偽り、銀行ごとに異なる決算書を作成していた」。この手法は「大阪ではここ数年盛んにつかわれていた」ということだ。この手法により当社と関係会社は複数の取引銀行の存在を秘匿し続けることで年商を上回る48億円の融資を確保していていたことが判明している。

騙されていたのは銀行でけではない。約30社ものリース会社も多重リースという悪質な手法で30億円近い資金を騙し取られていた(帝国ニュースによると「35億円の内80%以上が多重リース」というから30億円近い資金は騙し取られたことになる)。

多重リースというのは、一つのリース物件(OA機器など)で複数のリースを組む仕組みで、物件代金の数倍の資金を集める方法だ。目先のお金は入ってくるが、毎月のリース料支払が発生するので、本業がよほど上手くいかない限り、破綻するのは時間の問題である。

ところで会社が金融機関に対して、借入額を少なく報告するとどうして融資やリースを受け易くなるのか?というと理由は簡単である。金融機関は与信の安全性を測定する時に、「債務償還年数」という物差を使う。「債務償還年数」というのは企業の債務額を年間のキャッシュフロー(簡単にいうと税引後利益に減価償却額を加えた金額)で除して算出する。この年数が少ない程弁済可能性が高いと判定される。そこで粉飾企業は債務額を少なく見せることで、金融機関から融資を引出し易くするのである。

ところで数年前三井住友銀行や中央三井信託銀行など大手の金融機関が、中小企業向けに1社数千万円から1億円の融資を簡単な審査で実行するというキャンペーンを張ったことがある。だが結果は惨憺たるもので、デフォルトの多さに驚愕したこれらの大手行はごく短期間で中小企業融資を大幅に縮小してしまった。

何故このようなことが起きたか?ということは、このブログで以前述べたことがあるが、もう一度考えてみよう。大手銀行が中小企業融資に乗り出した背景には「中小企業融資を一つのビジネス分野とする米銀モデル」の模倣がある。ところが彼等は米銀モデルを模倣する時、ある極めて重要な前提条件を見落とした(あるいは無視した)と思われる。それは債務者と債権者の情報の非対称性の問題である。

ジャストワンの詐欺の例が示すように、債務者が金融機関に虚偽の決算書等を出すなど偽計を用いる時、金融機関がこれを見破ることは容易ではない。これを情報の非対称性と呼ぶ。これは洋の東西を問わない事実だ。

だが米銀の小企業融資の場合、少なくとも情報の非対称性により金融機関が大きな痛手を蒙ることは日本よりはるかに少ない。その理由は何故かというと、米国では小企業の銀行取引数は通常1,2行と極めて少ないからだ。企業の業績はキャッシュの動きに現れる。売上が増えると入金が増え、利益が増えると資金が滞留する(あるいは借入が返済される)。取引銀行の数が少ないとキャッシュの動きが銀行に見える。決算書はウソをついても、キャッシュはウソをつくことができないのである。

だから米国での小企業融資は日本より情報の非対象性の点からは安全性が高いのである(無論米国でもエンロンなどの巨大な粉飾決算はある。これは企業の内容が巨大・複雑という情報の非対称性の問題である)。

大部分の日本の中小企業は正しい情報を金融機関に伝えていると信じたいが、私の会社でも少し前にある中堅スーパーの粉飾決算に引っかかったことがあり、疑心が晴れないことも事実である。

粉飾決算や多重リースという禁断の錬金術の末路は無残だ。正々とした企業の整理であれば、再建の道もあったのではないか?と思うのだが・・・・

コメント (2)
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