「兵は拙速を聞くも未だ巧の久しきをみず」というのは孫子の言葉である。戦争においては、多少拙くとも迅速に動けという教えだ。孫子は米国でも良く読まれていると聞くが、昨今の米国政府・連銀の金融安定化策を見ているとこの「兵は拙速を聞く」を実践している感がある。毎日毎日良く新しい対策が出てくるものだと感心する。市場は時としてその対策を好感し、時として対策のプロセスではなく結果を見ようとする。
先週日曜日の深夜まで交渉されたシティグループの救済策を月曜日の株式市場は素直に好感した。一方昨日発表された住宅ローン関連商品を60千億ドル分連銀が買い取るという77兆円の追加金融対策は、他の悪材料を押しのけるほどのインパクトはなかったようだ。
ところでシティグループの救済策だが、幾つか気になるところがある。一つは「シティが政府のバックアップを得ると、預金者や金融市場はシティを安全と考え、シティは低利の資金調達が可能になる」という点だ。
こうなるとバンカメ、JPモルガンチェース、ウエルス・ファーゴといった他の大手銀行は、資金調達面で不利になるのではないだろうか?
また彼等よりはるかに小さな地銀クラス、つまり政府が救済策を講じないと考えられる中小金融機関は一層資金調達が苦しくなると考えられる。
ニューヨーク・タイムズはある投資信託会社のファンドマネージャーの言葉を紹介している。曰く「もしあなたが大銀行であれば特別の扱いを受けることができる。だから誰もが大きくなろうと思うのだ」
米国政府がシティを目先の破綻の懸念から救うために大掛かりな救済プランを提供したのか、中小銀行の買収・合併を促進するために大手行には特別な便宜を与えることを示したのか、今の私には判断材料はない。だが結果としてこれは金融再編の大きな起爆剤になるかもしれない。
拙速な対策かどうかは歴史は判定するだろう。