金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

うーん、アメリカの住宅、底はまだ遠いか

2009年04月23日 | 社会・経済

ニューヨーク・タイムズのコラムニスト・David Leonhardtという人が「住宅危機の終わりは恐らくまだ近くはない」For Housing Crisis, the end of Probably isn't Nearという記事を書いていた。

彼がこう判断した理由は不動産オークションにおける物件の動きの悪さだ。記事は「2006年、7年に公的な統計が住宅価格の上昇を示していたが、これは売り手が売り惜しみをした結果である。大部分が競売物件で構成されるオークションではこの時期既に住宅価格の下落は多くの地域で始まっていた」と書き出す。

このコラムニスト・レオンハードさんは1年前ワシントンに移住した時、最初の自宅を購入した。彼は「住宅価格はまだ下落するかもしれないが、自分が家を買うと決心するに足るほど既に下落しているし、賃貸住宅に入ってその後引越しするのも面倒だから自宅を購入した。しかしこれ程まで住宅価格が下落するとは予想していなかった」と認めている。

このコラムニスト、実際にワシントンで行われたオークションに行って状況を記事にしている。オークション・マネージャーは「今が底に近いよ」と力説するが、オークションが始まると売れるのは低価格物件ばかり。投資物件である集合住宅のコーナーはほとんど空っぽ。

また彼の同僚がマイアミのより大きなオークション会場で見たことはもっと悲惨な状態だ。ボカラトン(フロリダ半島随一の別荘地)のワンベッドルーム・マンションがたった3万ドルで落札された。これは売り手のファニーメイの最低落札価格以下だったが、関係者によるとどうやら落札される見込みだという。何故このようなことが起きるかというと、ファニーメイや多くの銀行はフォークロージャーした物件を山ほど抱えているからだ。

金融機関はオバマ政権が示した住宅救済プログラムにどの債務者が適格であるかを見極めるためしばらく競売を控えていたが、最近また競売を加速させ始めた。

これは「住宅価格の下落がフォークロジャーを加速させ、フォークロージャーの増加が住宅価格の下落を加速する」というマイナス循環である。ゴールドマンザックスのチーフ・エコノミストは「住宅の供給過剰から全国ベースで住宅価格は更に15%下落する可能性がある」と述べている。

全国ベースで見ると住宅価格が極めて高いという状態ではないが、ニューヨーク、ロス・アンジェルス、シカゴなど(つまり大都市圏)では、住宅価格はまだ非常に高いと記事は述べていた。

ところで「日にち薬」という言葉がある。これは関西で使われあまり東京では使われない言葉らしい。意味は「時間が経つと治る病気・怪我」と同時に「時間が経たないと治らない病気・怪我」という意味がある。私は一度肋骨を折ったことがあるが、これなど「日にち薬」でしか治らない症例だろう。骨がくっつくには時間がかかるのである。

アメリカの住宅危機、これも「日にち薬」でしか治らないのかもしれない。つまり価格が落ちるところまで落ちないと治癒しないということだろう。

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中国が原潜を公開する意味

2009年04月22日 | 国際・政治

4月22日のニューヨーク・タイムズは「中国海軍の幹部が23日に中国海軍建設60周年式典の一部として原子力潜水艦を公開すると述べた」と報じていた。中国海軍は青島Qingdaoで潜水艦を公開する予定だが、中国海軍が艦船を公開するのは初めてのこと。

中国海軍の幹部は新華通信に「中国が世界の安全保障の脅威になるのではないかという疑いは誤解と中国に対する理解不足が原因である」「外国の海軍幹部が中国を訪問して本当の状態を知れば嫌疑は消えるだろう」と語っている。

だが中国が海軍力を誇示して領海問題の解決にアドバンテージを取ろうとしていることは疑いの余地もない。中国政府はフィリッピン政府と南沙諸島の領有を巡る論争を抱えているが、中国政府は「不法漁業取締り」の名目で6隻の巡視船をこの海域に派遣して海軍力を誇示している。

米国国防省が3月に発表したレポートによると、中国の軍備増強の目的は台湾海峡をはさむ戦争が起きた時充分な戦力を確保しておくというものだと述べている。

2006年に中国政府のシンクタンクである中国社会科学院は中国の総合力を世界6位と位置づけた。ダントツ1位はアメリカで2位英国3位ロシアと続く。日本は中国の一つ下の7位だ。中国は自らアジアトップの国力を持つ国と位置付けた訳だ。海軍力の誇示は国力のステータスシンボルを内外に示すという意味も大きいだろう。

元々中国は世界の大国中の大国であった。少なくとも19世紀半ばまで「眠れる獅子」として西欧列強が恐れていたことは間違いない。その神話は1840年のアヘン戦争と1894,5年の日清戦争で一旦崩れる。だがそれから約100年中国は再び世界の大国へ向けて地歩を固め始めた。原子力潜水艦の公開は中国の自信の表れと見てよいだろう。

日本は今この中国パワーとどう向き合うか真剣に考える時に差し掛かっている。

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出版不況を実感しました

2009年04月22日 | うんちく・小ネタ

今日(4月22日)の日経新聞朝刊に「NYタイムズ最終73億円(74百万ドル)赤字」という記事が出ていた。前年同期が33万ドルの赤字だから大幅な赤字拡大だ。赤字拡大の要因は広告収入の急減ということ。私も毎日のようにNYタイムズの記事を無料で閲覧しているが、新聞によると「無料化で読者層の拡大は続いているが、広告収入は5%の減」とのことだ。新聞・出版業界は洋の東西を問わず厳しいようだ。

実際昨日出版業界の厳しさを実感する出来事があった。私はほぼ毎月ある地域金融機関向けの月刊誌に寄稿しているが、その雑誌の編集長がきて愚痴を並べ始めた。曰く「地銀。・信金なども経費締め付けが厳しく、節目の3月で購読部数を減らすところが増えてきた」「経費削減のために今年から雑誌の紙を真っ白で少し薄くして、紙代・郵送料を削減している」

私も「そりゃー大変ですね。でも金融庁の方の検査マニュアル解説など参考になるでしょうねぇ」と切り替えしを出すが「最近は銀行・信金も忙しくて雑誌など読んでいる暇はないといわれる」という返事。そして編集長はとうとう本題を切り出した。「このような厳しい状況ですから、暫く原稿代を8割程度にして頂きたいのですが・・・・」

まあ半分ボランティアと自己顕示のためにやっている投稿なので否やはなく応諾したが、出版不況をこんな形で実感するとは思わなかった。それにしても原稿料が落ちるということは一般論としては、記事の質が落ちる可能性につながっていると思う。私は寄稿をする以上皆さんのためになる記事を書きたいと思い、資料収集に原稿料の過半を投じることが多いが、原稿料が減ると資料収集コストを削減させたいと思うのは止むを得ないことだろう。

話は飛ぶが最近民放のテレビ番組が押しなべて面白くなくなってきた。広告料の減少で番組制作費を絞っているのだろう。「不況」と「インターネットの攻勢」の中で伝統的なメディアに試練の時が続いている。

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多様化する米国の葬儀

2009年04月21日 | 社会・経済

会社に勤めていると社員やOB・OGの訃報が回ってくる。何時の頃からか記憶はないが、この「訃報」の葬儀形式に「仏式」「神式」「キリスト教式」に加えて「無宗教」という項目が追加されていた。日本の葬儀形式が多様化・簡素化している証しだと私は感じている。

10数年前アメリカで暮らしていた頃、郊外をドライブして時、野辺送りや墓地を見ることがあった。アメリカ人が同じような野辺送りをして、同じようなお墓に入る(もっともアーリントン墓地のケネディのように立派なお墓もあるが)ことを見て、私は「アメリカ人は個性的な生き方をするが、死ねば同じような墓に入る。一方日本人は同質的な生き方をするが死ねばもう少し個性的なお墓に眠る」という妙な感慨を持ったことを覚えている。

しかし今日のニューヨーク・タイムズに出ていた葬儀に関する記事を見て、このような考え方を改める必要があると思った。記事は葬儀の多様化の一例としてバイク好きの人は「ハーレーダビッドソンに牽引された特別仕立ての霊柩車」に乗ると書き出す。

葬儀の簡素化の一つの傾向は「火葬」が増えていることだ。2000年には「火葬」の割合は26%だったが、今年は38%に増えると予想されている(1963年にバチカンは「火葬禁止令」を廃止している)。「火葬」が増えている理由は「埋葬」に較べてコストが半分という経済的メリットだ。米国の典型的な「埋葬」は遺体に防腐処理を行って丈夫な棺に入れて埋葬するというもの。これに対して防腐処理を施さない「自然埋葬」(昔に日本の土葬と同じか?)も復活しているという。

因みに「防腐処理埋葬」のコストは葬儀代込で8千ドルと記事に書いてあった。これは日本の葬儀費用が150万円から200万円と言われているので半分以下だ。コストを下げるために木製や金属製の効果な棺をレンタルするサービスもある。つまり「お別れ」用のいわば化粧棺(このような言葉があるかどうか知らないが)の短期的貸出。レンタル料は1千ドル程度ということ。

「棺のレンタルなんて嫌だ!」という人にはコストコ(大型小売店)で、924.99ドルから2,999.99ドルで棺が売られている。こちらの値段は映画「おくりびと」で山崎努が言っていたのと似通った価格帯だ。599ドルの「棺組立キッド」を作っている人もいると記事は紹介していた。

このような葬儀の簡素化や多様化が起きる原因について、ニューヨーク・タイムズは人口移動が拡大し、人々が故郷を離れる傾向が強くなり、死んだ時に見送る人が少なくなっているからだと分析している。日本の葬儀の多様化や簡素化の要因と同じと考えてよいだろう。

このニューヨーク・タイムズのタイトルは「葬儀:あなたが大きなお金を使う最後のチャンス」というものだった。これは日本の葬儀会社の広告でも見かける宣伝文句。高齢化が葬儀の多様化のドライバーとすれば、日本はこの分野でもトップランナーである。

アメリカの葬儀業界は不景気下でも今年1.2%程度の成長が見込まれる。日本の業界統計は持ち合わせないが、「平安レイサービス」などという上場会社もあるので投資対象として研究価値はあるかもしれない。

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米銀、自由と国有化のスペクトラム

2009年04月20日 | 金融

米銀のストレス・テスト結果発表が近づくにつれて、色々な観測が市場に流れている。昨日のファイナンシャルタイムズとニューヨーク・タイムズを見ると、米政府の大手行に対する対応について違った切り口から記事が出ていた。

FTの記事は「TARP(不良債権救済プログラム)資金の返済に条件をつける」という政府見解を紹介したもので、経済的な国益を判断した上で国は返済の可否を決めるというものだ。具体的には「金融システムが安定している」「リセッションを悪化させる可能性のあるような公的資金返済インセンティブを作らない」「景気回復をサポートする信用供与を行う資本を金融システムが十分に持っている」ことが条件となるとある政府官僚が話をしていた。

ニューヨーク・タイムズは「オバマ政権のアドバイザリー達は政府資金を追加投入することなく、銀行の資本不足を解決するため、劣後ローンを普通株に転換することもありうると決定した」と報じていた。劣後ローンを普通株に転換すると「損失をダイレクトに吸収」できるので、これ以上公的資金を投入する必要がなくなる。しかし納税者資金を毀損する可能性は高まる。また国が銀行の(場合によっては最大の)株主となることで、マクロ的な金融・経済政策と個別銀行の株主価値を最大化するという事業戦略の利益相反を抱えてしまうことになる。だからオバマ政権は国有化策を否定してきた。しかしTARP資金が枯渇してきているので、普通株転換策やむなしというのがNTの見解のようだ。

FTの記事とNTの記事を重ね合わせると、近い将来の米銀のスペクトラムが透けて見える。つまり条件付ではあるものの、TARP資金を返済した「強い銀行」と「政府劣後ローンを普通株に転換した弱い国有銀行」とその間の「劣後ローンを受けている銀行」が誕生する可能性だ。このような階層で構成される金融市場がうまく機能するのかどうか私には分からない。

ところで今日某銀行の営業担当役員と話をする機会があった。彼によると「5月頃一回株式相場が下げる局面があると、底入れ感が出て回復の兆しが見えるのですが」ということだ。また彼は面白い比喩を使っていた。「今の経済環境でV字型の回復を期待するのであれば、足下を掘り下げ、立ち居地を低くするしかありませんね」。つまり赤字を出し切って落ちるところまで落ちない限り、V字的な回復はないという話。

米銀ももう一度足下を掘る必要があるということだろうか?

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