ニューヨーク・タイムズにObama becomes Japan's English Teacherという記事が出ていた。話は神奈川県のある美容室がバックグラウンド・ミュージックにオバマ大統領の就任演説のCDを使い出したというところからスタートする。
オバマの演説集は昨年11月以降50万部売れている。これをもってタイムズは「オバマは日本の英語の先生」とした訳だ。ノーベル平和賞受賞でオバマのCD付「核なき世界」などは益々売れるだろう。朝日出版社のHPはこちら→http://www.asahipress.com/bookdetail_lang/9784255004884/
オバマの演説集が売れる理由は何か?タイムズによると英語を勉強した人を含めて大方の日本人にとってネイティブ・スピーカーの演説を理解することは難しいようだ。しかしオバマの演説は発音が明瞭でゆっくりしているから理解しやすいとコミュニケーションの専門家・二階堂教授はいう。
更にオバマの演説集を出版している朝日出版社の山本編集長は「オバマの演説内容を理解できない人でもオバマの演説を聞くと鼓舞される」という。実際読者の中には「聞き取れたのはYes, we can」だけという人もいるということだ。こうなると演説集は一種の音楽だ。
これは仏教のお経のようなものでもある。お坊さんの唱えるお経を聞いてそのコンテンツを全部理解することは不可能だ。だがじっくり聞いていると少し分かるところがあり、それを頼りに推測を働かせながら、打ち寄せる波のような読経を聞いているとある種の精神の安定を覚えることがある。これと共通した効果がオバマの演説にはあるようだ。
もっともお経が精神の安定をもたらすのに対して、オバマの演説は精神の高揚をもたらす。
タイムズはオバマの演説が日本で人気がある理由の一つは「国民が人々を鼓舞するような演説をする指導者を求めているからだ」という意見を紹介している。日本人は長いこと感動させるような演説やコミュニケーションを重視してこなかったが、変化の兆しが出ているのかもしれない。
民主主義における優れたリーダーの淵源をローマ時代にまで遡ると「肉体の健全、知性、類まれなる寛容、持続する意思、説得力、古来この徳性を兼ね備えた人物はジュリアス・シーザーしかいない」というイタリアの教科書の文章を思い起こす(塩野七生さんの孫引き)。
オバマをシーザーにたとえるつもりはないが、オバマの中にシーザーが持っていた徳性の幾つかが見えることは確かだ。
私はまだオバマの演説集を持っていないが、安いものだしこの際買ってみようかな?と思い始めている。完全に理解できなくても、CDを聞いて元気を貰える・・・と考えると気も楽になるから。