金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

不景気で一人勝ちの中国の輸出

2009年10月15日 | 社会・経済

今日(10月14日)中国政府が発表した貿易統計によると、中国の輸出入の回復振りは顕著だ。9月の輸出は前年同月比-15.2%で8月の-23.4%から大幅に改善している。より顕著なのは輸入だ。9月の輸入は前年同月比-3.5%(8月は-17%)、これは内需が堅調なことを示している。

だが世界の目は不景気の中で一人勝ちの様相を示す中国の輸出産業に注がれている。無論中国も世界的な景気後退の影響を受けて、今年前半の輸出は前年比22%減少しているが、ドイツの-34%、日本の37%、アメリカの-24%に較べると減少幅は小さい。

ニューヨーク・タイムズによると、中国は日本、イタリア、カナダ、メキシコ、中央アメリカなどのシェアを食って輸出シェアを伸ばしている。中国には「二本足で食べないものは両親だけ。四本足で食べないものは机だけ」という諺があるがまさにあらゆる分野で競争相手のシェアを食いまくっているって感じだ。

カナダは米国の最大に輸入先だったが、今年中国がその地位を奪った。中国のシェアは昨年の15%から19%に伸び、カナダのシェアは17%から14.5%に減少した。中国が輸出で強い競争力を発揮できる理由は良く言えば非常に柔軟な労働市場、悪くいうといつでも首にできる安価な労働力を大量に抱えているからだ。

中国は輸出シェアを伸ばしているとはいえ、価格面では徹底的に叩かれている。例えば中国から欧州や米国に輸出するジーンズは一着7ドルが妥当な価格だが、2.85ドルまで叩かれている。

こうなると中国は世界にデフレを輸出しているようなものだ。中国の輸出競争力の源泉は安い労働力に加えて、安い人民元と政府の輸出産業に対する手厚い援助(税制面の優遇、低金利融資)だ。人民元は2005年に対ドルで切り上げられたが、その後また米ドルにペグしている。ドルはこの1年で対ユーロで15%下落しているので、中国は欧州諸国に対して為替面で非常に有利な立場にある。

一方中国の富裕層が欧米の高級品の購入を増やしてることも事実だ。マクロ的に見ると中国は低所得者層を犠牲にすることで、輸出競争力を高め、稼いだ外貨の一部で富裕層が欧米の高級品を買うという構図だろう。

中国で「国民の所得格差是正」と人民元の水準訂正が行われない限り、中国の進撃は続きそうだ。

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Too much of a good thing (イディオム・シリーズ)

2009年10月14日 | 英語

"Too much of a good thing" 一つ一つの単語の意味は簡単だが、慣用句となると意味が分かりにくい言葉というものが英語には多い。Too much of a good thingというのは一般に「ありがた迷惑」と訳されることが多いが、状況からもう少し違う訳を考える必要もある言葉だ。

ニューヨーク・タイムズに次の文章が出ていた。少し長くなるが意味を通じさせるために全部引用する。

The governor of the Reserve Bank of India recently said that to control inflation, his central bank might have to raise interest rates before developed countries, where rates are at historic lows. But he said that doing so could encourage overseas investors to move even more money into India, driving the rupee even higher.And that could be too much of a good thing.

「インド準備銀行(中央銀行)の総裁は最近インフレーションをコントロールするために、同行は歴史的な低金利状態にある先進国が金利を引き上げる前に金利を上げざるを得ないかもしれないと述べた。しかし彼はそうすることで海外の投資家の資金を更にインドに呼び込むことになり、インドルピーが更に上昇するかもしれないと述べた。経済成長を助ける外資も入り過ぎると好ましくないだろう」

数ヶ月前からインドにはかってない程の大量の外資が流入している。大量の資金は株価を3月の底値から倍近いレベルまで押し上げ、インド経済はIMFの予想を超える勢いで成長し、2010年には8%から9%の成長を見せる可能性が高まっている。

経済成長と外貨の急速な流入は株式・不動産バブルを発生させる可能性があるので、中央銀行を金利を引き上げて経済の引き締めを図ろうとする。しかし金利上昇は更なる外資を呼び込む可能性があり、外貨がルピーを買うのでルピー高を招くという訳だ。

「ありがた迷惑」という訳でも良いのかもしれないが因果関係をはっきりさせるべく「程よい外資の流入は(経済を拡大する上で)好ましいが、過剰流入はバブルやルピー高を招くので好ましくない」と訳した。

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ノーベル賞委員会、オバマ選択を弁明

2009年10月14日 | 国際・政治

オバマ大統領を今年のノーベル平和賞受賞者に選択したことには、驚きとともに多くの批判がある。ノルウェイのノーベル平和賞委員会も早速弁明に動いて、委員会幹事のLundestad氏がファイナンシャル・タイムズに次のように語っている。

「オバマ大統領は、多国間外交、核兵器削減、気候変化への挑戦という点でアルフレッド・ノーベルが定めた受賞基準について大方の平和賞受賞者を上回っている」「オバマ大統領の政策はまだ結果を生んでいないが、ノーベル賞が彼の政治課題の達成を助長することを希望している」「ノーベル平和賞が今後の成果を助長するために授与されたことは過去にも多くあることだ」

「私(Lundestad氏)のノーベル賞委員会における19年の経験の中で、今回の授与は議論を呼ぶものからは程遠い。1989年のダライ・ラマへの授与や1994年のアラファト・ラビン・ペレス3氏への授与の方がもっと異論の多いものだった」

だがノーベル平和賞委員会がオバマ大統領を選んだことは、委員会が民主党に偏向しているという批判を増加させている。というのは記憶に新しいところでは民主党のアル・ゴア元副大統領やカーター元大統領が平和賞を受賞しているからだ。これに対しLundestad氏は「共和党関係者のキッシンジャーやセオドア・ルーズベルトも受賞している」と反論しているが、委員会がアルフレッド・ノーベルの国際主義的な考え方を受け入れている政治家をひいきにすることについて弁解をしなかった。

FTは「米国内でオバマ大統領は外交の名前の下で米国の国益を犠牲にしたという批判が高まり、彼の立場を弱くするだろう」という批判者の声を紹介している。

実際別のFTの記事は「オバマ大統領よ、パンチを出す(喧嘩をする)勇気を持て」という主旨のコメントを紹介していた。そのコメントによると5年前オバマがまだ地方政治家だった時、彼の事務所にはモハメッド・アリが対戦相手をノックアウトした写真が張ってあり、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」というアリの言葉が書いてあった。

書き手は「しかし今のオバマは蝶のように舞い、蝶のように刺すように見える」と批判している。

弱虫を嫌い強者を愛する米国世論は、オバマ大統領の平和賞受賞より中東で弱腰外交姿勢に敏感に反応する。

オバマ受賞により平和賞の選考プロセスも人々の耳目を集めた。ノーベル平和賞選考委員会はノルウェイの4つの政党から5人の元政治家が選ばれて構成されている(右派左派のバランスは取れているようだ)。

スウェーデン人のアルフレッド・ノーベルが、何故平和賞の選考だけ隣国のノルウェイに委ねたのかは、ノーベル自身が理由を述べていないので分からない。ある人は「ノーベルはスウェーデンよりもノルウェイの方が平和を愛する国民だと考え、更に平和賞がスウェーデンの外交道具に使われることを恐れたのではないか?」という。またある人はノーベルはノルウェイの作家で平和運動家のビヨルソンを尊敬していたので平和賞の選考をノルウェイに委ねたのではないかと推測している。

さて来月にはオバマ大統領が訪日する。インド洋の給油継続問題や普天間基地移転問題など喫緊の外交課題は山積みだ。日本の政府は米国の世論が「オバマに強い外交」を求めていることを十分理解しておく必要があるだろう。

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「しあわせのねだん」(角田光代)流し読み

2009年10月14日 | うんちく・小ネタ

連休前にブックオフに立ち寄って何冊かの本を買った。その中に「しあわせのねだん」(角田光代著 新潮文庫)という本があった。「あった」というが、偶然混じっていた訳ではない。ちゃんと選んだのだ。実は僕は角田さんの本が好きだ。正確に言うとエッセイが好きだ(小説がフィーリングが合わなくて途中で止める場合もある)。海外旅行モノも良いし「しあわせのねだん」のような日常モノも良い。角田さんのエッセイは軽い話の中にキラッとしたアフォリズムがあるところが良い。

「しあわせのねだん」は日常のモノやサービスに払うお金の値段を通じて人生の謎に迫る面白いエッセイだ。とりわけ最後の「一日5964円」が良かった。

「一日5964円」は1995年11月9日に角田さんが使ったお金の合計。このうち3000円が焼肉代。この頃角田さんは週のうち、3,4日はだれかとお酒を飲んで最低3000円は使っている。

この飲み代について角田さんは「今の私の足場のなかに、二十代のころとにかくだれかと飲んでいた時間、というものはまぎれもなくある」という。「二十代のとき使ったお金がその人の一部を作るのではないか」と角田さんはいう。そして「三十代に使ったお金というのも、きっとこの先なんらかの意味を持つのだろうと思う」という。

最後に「ゆたかであるということは、お金がいくらある、ということではけっしてなにのだ。」「二十代を貯金に費やせば、それだけのことはある、というか、それだけのことはしかない。数字は積み上がるが、内面に積み上がるものはなにもない」と語る。

この話、私のように長年膨大なお金を使ってお酒を飲んできた者には救いになる。ただし角田さんは「私が友人たちと飲んでいた膨大な時間は、(恋愛について、仕事について、幸福について、未来について・・・)考えたことの交換会であった気がする」という。単にお酒を飲んでウダウダ言っていた訳ではないのですね。ここが僕とは違うところかなぁ。

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ブラジル、借入人が貸し手に回る時

2009年10月13日 | 金融

最近ではブラジル投資が個人投資家の間でも話題のようだ。今日の日経ヴェリタスもエマージング市場におけるETF投資などを冒頭の記事にしていた。

BRICS(中国、インド、ロシア、ブラジル)投資の中で、日本人投資家から見て先行していたのは中国が一番、ついてインドだろう。これは経済規模や発展速度に加えて、地理的・歴史的親密感によるところが大きい。加えて「国の格付」が投資適格であるかどうかも、機関投資家にとっては大きな要素だったろう。ブラジル以外の国は投資適格格付(つまりBBB各以上)だったが、ブラジルについては先月ムーディーズがソブリン格付をBaa3(投資適格の一番下)に引き上げたことで漸く三大格付機関から投資適格のお墨付きを貰うことができた。ムーディーズの格上効果は機関投資家の資金流入という観点から意味が大きいと私は見ている。

だが私にとって印象深いことは、長年IMFからお金を借りる立場にあったブラジルが最近IMFに100億ドルのローンを供与する契約書を締結したという記事を目にしたことだ。これはBRICSがIMFに対し総額800億ドルのローンを供与するプランの一環ということだ。昔ブラジルが資金繰りに四苦八苦していたことを思うと隔日の感だ。

経済成長の結果、長年の借入人が貸し手になり、次の発展途上国を支援する。麗しい話ではないか。

ところで雑誌や新聞はETFを使って低コストの投資ができるように書くが二つの盲点があることに注意しておこう。一つは米国株式(ETFも米国株式)の取引の場合、1取引で25ドル+消費税(マネックス証券の場合)の手数料がかかることだ。取引コスト比率を下げるためには、一回の取引量を大きくする必要がある。毎月1,2万円外国ETFを買うというような投資はコスト倒れになるということだ。

次に「買いの成行」取引では、時価の1.5倍の資金を必要とする、逆にいうと口座にある外貨残高の67%程度の株数しか証券会社(マネックス証券の場合だが)が注文を受け付けないという点だ。無論日本時間の午後11時頃まで起きていて、場を見ながら指値注文をすると口座残高範囲で取引は可能だ。

まあ、このような細かい不便はあるが、今のブラジルには伸びる活力があり投資マインドをかき立てることは確かだ。

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